第2話

「あ、龍魔。おはよ」

 

「おう。はよ」

 

 僕の言葉に隣に立っている男は頷き、挨拶を返してくれる。

 

 隣に立っている男。

 短く整えられた黒い髪に、黒い瞳。ちょっと遠くから見ればイケメンに見えるような気もするような……フツメンの男、鯉本 龍魔。

 名前のかっこよさなら日本一だろう。

 

 僕の一番の友だちであり、僕の親友である男だ。


「……それにしてもお前は災難だなぁ。席から追い出されるのだから」


「災難でもない……転校生なんて陽キャのイベント、スルー一択。むしろ僕を追い出してくれて感謝まである」


「……」

 

 自信満々に話す僕の言葉に対して、龍魔は沈黙する。

 そんな龍魔を無視して僕は言葉を続ける。


「ふっ。……これこそが陰キャの心得だよ!」


「お前ってば何故か自分が陰キャであることに誇りを持っているよな」


「当たり前だろう!」

 

 僕は龍魔の言葉を聞いて、自信満々に胸を張る。

 目指すべきは陰の実力者!僕がやりたいの陰の実力者!目立っていたら影の実力者ではないのだ!

 陰キャであることに意味があるのだ。


「だって僕だからね!」


「そうだな……お前だものな」

 

 僕の言葉に対して龍魔が心底納得が言ったかのように首を縦に振る。


「にしてもすごい人気だよなぁ、転校生。まぁ、ものすごい可愛いから当然とも言えるが。あんなの子と付き合ってみたいことだぜ」


「ん?君の彼女に転校生が可愛すぎて付き合いたいって言ってたって告げ口しようか?」


「やめろよ。マジで」


 急に真顔になった龍魔が僕の肩を掴む。


「あいつと別れるなんて事態になったらお前を埋めるからな?」


「……今日何か提出しなきゃいけない宿題あったけ?」


「お前今、露骨に話題そらしたよな。んー?確かなかったと思うけど……あっ。数学宿題あったわ」


「へ?」

 

「ほら、一週間前に出された」


「……?」


「エスコートのまとめ」


「あぁ!それか。……あぁ、やってないわ」


「おいおい」


「まぁ後でやればいいや。……クソッ!なんで僕の席を占領しているんだ!?陽キャ共!」

 

「さっきと言っていることが反転しているぞ」


「……?」


「しらこい顔で首をかしげるのやめぇーや」


「……?」


「で、だ。言うなよ?さっきのこと俺の彼女には。冗談だからな?俺はあいつのことを愛しているからな?」


「ふっ」


 無駄だよ……龍魔。君が僕の肩を握りつぶそう力を込めたとこ……いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええ!?こんな力強い!?

 僕と龍魔は一限目の授業を担当する先生がクラスに来るまでダラダラと駄弁り続けた。

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