プロローグ3

「え……?凄」

 

 僕は昨晩と同じ廃墟の屋上に立った僕は一言つぶやく。

 

「……まだ戦っているじゃん」

 

 あれから一晩経ったというのに、二人の戦いは終わっていなかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!」

 

 紅い……オーラみたいなのを全身から漂わせていて、口から真っ紅な煙を吐く少女が既にボロボロの男をフルボッコにしていた。

 ……あれ?あの少女ってばあんなに禍々しかったけ?なんか勇者みたいな感じだったよね……?

 悪役っぽかった男よりも少女の方がよっぽど悪役しているんだけど……一晩の間に何があったの?


「クッ……!な、なんなのだァァァァァ!!!ガキッ!」

 

 男はなんかカッコいい右腕を少女に向けて振るう。

 少女はその腕を噛みちぎり、そのままタックルで吹き飛ばして見せる。

 ……あれ?その手に握られている剣はどうしたの?


「ァァァァァァァァァァ!!!」


「グボォ」

 

 少女のタックルが、パンチが、キックが、男の体を打ちつけ血を吹き出させる。

 うわぁ……痛そう。


「クソ、がぁ……」


 ボロボロの男が少女を睨みつける。既に立ち上がる力すら残っていないのか、倒れたままだ。


「……ぁぁぁぁ」

 

 少女の体から漏れる紅いオーラが……意思を持ったかのように荒れ狂い、周りを削りとっていく。

 え?あのオーラってば物こわっ。


「にょわぁーーー!!!」

  

 紅いオーラが僕の居た廃墟にまで牙を向き、廃墟を瓦礫の山へと変貌させる。


「暗天『藤』」

 

 僕は慌てて漆黒の刀を取り出し、スタイリッシュに男と少女の間に立つ。


「……ッ!?」


「……ァ?」

 

 いきなり現れた僕に対して男は顔を恐怖に染め、少女は無表情に僕のことを見つめて首を傾げる。


「ふっ。愚かな小娘だ。……我を失い、守るべきものを危険に晒すとは」

 

 確か、この少女は勇者と呼ばれていたはず……!多分。きっと。恐らく。

だから、多分こうして暴れるのは予定外……僕の言葉はきっと自然で……イカしているはず!

 なんか目の焦点もあってないし、ちゃんと正気を失っているだろう。


「少し、遊んでやろう」

 

 僕は少女の方にゆっくりと歩を進めていく。


「ァァァァァァァァァァ!!!」

 

 少女は大地を抉り、僕の方へと迫ってくる。

 

「ふぅむ」

 

 僕の方へと伸びてくる少女の腕を自分の肌を滑らせるように回避する。神回避!

 

「単調だな」

 

 僕はその全ての攻撃をギリギリで回避していく。

 別にいつでも反撃して、勝てるけど……瞬殺してもつまらないだろう。

 

「……ァァァァァァァァァァ」


 僕が舐めプをかましている間に、少女から漏れ出す紅いオーラはどんどん濃くなっていく、とうとう空まで赤く染め上げてしまう。

 

「ァァァァァァァァァァァァァ」

 

 もはや紅い一つの閃光となり、なんか何にもない空まで蹴って僕に肉薄してくる少女の攻撃を回避しながら、刀を持つ右手にほんの少しばかりの力を込める。


「ァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 少女が天を蹴り、空間を引き裂き、真っ赤な閃光となり……今までただただ持っているだけだった剣を僕に向けて突っ込んでくる。

 

「うるさいぞ」

 

 僕は少女の剣に自分の漆黒の刀を合わせる。

 紅い剣と黒の刀はぶつかり合う。

 



 ────────────ァン

 


 

 全てが消し飛ぶ。

 天空を覆う真っ紅な雲も、少女を覆う紅いオーラも。

 全て、吹き飛ぶ。僕の圧倒的な力によって。


「愚かなことだ。全く」

 

「……ぁ」

 

「己が勇者であるという自覚を持つべきだろう。小娘」

 

 僕は紅いオーラが消えて、なんか正気を取り戻したように見える少女に告げ、今度は


「……ぁ、あぁ……」

 

 男は近づいてくる僕を前に体を震わせる。


「ふむ」

 

 僕は魔法を使って男の意識を闇の中へと追いやった後、男の胸元につけられていたきれいな宝石を奪い取る。

 なんかこの宝石からは……ただの石ころに入っているとは思えないまでの圧倒的なエネルギが入っている。

 この宝石が目的でした……って感じにすれば僕が今、ここに現れた理由にもなるだろう。

 勇者を助けるのが目的……となると、僕は正義の味方ということになってしまう。僕は中立の、正体不明の存在でありたいのだ。

 そっちのほうがカッコいい。


「ふっ」

 

 僕は遠くから僕のことを観察している集団へと視線を送った後、この場から姿を消した。

 学校に行かなくては!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る