第14話 勇者たち

◇勇者 島津孝介視点


錬生師とかいうわけのわからない女を追い出し、俺と剣聖の木原由衣はひたすら剣を振っていた。騎士団長が言うには。

「魔力でいくら強化できようが剣技で戦うには基礎がしっかりしていないといけない」

とのことだ。


賢者の三島大樹は魔力切れになるまで何度も魔法を使っていた。こちらはイメージで魔法を操るため実際にはなってはより強力なイメージに書き換えることを繰り返すようだ。


聖女の床波エリは俺と木原が木刀で実践をして傷を負った時にその傷を治療する。それ以外には人体についての勉強を行っていた。


そんな訓練を2週間行い国の南側にあるゴブリンダンジョンにやってきた。ここは街に近くスタンピートが発生すると被害が多いため先にダンジョンを攻略してしまいたいらしい。また、ゴブリンは最弱に近い魔物であり、勇者たちのレベル上げに最適であるのも理由の一つだと言われた。


一方勇者たちは。

「やっと魔物退治かよ。訓練長すぎだろ」

と勇者島津


「私の魔法で灰にしてあげましょう」

と賢者三島


「は~。だる」

と聖女床波


「ちょっとみんな頑張ろうよ」

と剣聖木原


それぞれ自身の実力を微塵も疑っておらず、やる気もチームワークもばらばらだった。


しかし、ダンジョンに入ると面白いように力を発揮しどんどんレベルが上がっていく。その感覚に四人は興奮していた。だが徐々に疲れがたまり冷静になってくると気づく。ゴブリンの数が一向に減っていかないことに。

勇者一行はこれでは危ないと判断しダンジョンから逃げかえることにした。ダンジョンの前でスタンピートに備えていた兵士たちは最初に勇者たちの力を見て安心しきっていたが勇者たちが慌てて出てきたことに驚く。後ろからは大量のゴブリンが着いてきていた。騎士団長は兵士たちに指示を出し、ゴブリンの対処に当たらせる。

「勇者様方、一体中で何がございましたか?」


その問いに代表して剣聖の木原が答える。

「最初の方は敵も弱く順調に進めていたのですが、ある時に敵が全く減っていないことに気づきまして。それで私たちの体力も限界に近かったため退却してきました」


その答えを聞いて、ダンジョンは既にスタンピート寸前だったのだろうと騎士団長は判断した。今まで発生したスタンピートでは最初はゴブリンしか出てこなかったはずなので十分に兵士たちで対処できるとも。


その判断は正しく一時間程ゴブリンがダンジョンからあふれ出したが兵士の手によってそれらは駆除された。いままでよりもスタンピートが始まるのが早いがたまたまだろうと判断し、翌日勇者たちには再度ダンジョンに潜ってもらうことにした。


だが次の日もその次の日もダンジョンではスタンピートが発生し、ダンジョンの攻略はできなかった。勇者たちもレベルが上がるにつれどんどんレベルの上りが悪くなる。ついでにとゴブリンに交じってホブゴブリンまで現れ始めた。流石に騎士団長も異常事態だと判断し、王都まで早馬を走らせることにした。


毎日限界まで戦う俺たちは、流石に我慢の限界で明日にはダンジョンを攻略すると宣言する。だが誰もその言葉を信じなかった。頭にきた俺は各種アイテムを横領しダンジョン攻略に乗り出した。その日無事にダンジョンを攻略することができたがアイテムを全て使い切ってしまった。その後騎士団長に呼び出される。


「あれは、次のリザードマンダンジョンの物資も含まれていたんですよ。ですが今回のゴブリンダンジョンは流石に異常事態でした。このことは私の判断で不問とします」


騎士団長のその言葉に苛立ったが今は耐える時だと歯を食いしばるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る