大文字伝子が行く16
クライングフリーマン
大文字伝子が行く16
本庄病院。病室で待っている蘭の所に手術を終えた南原が運ばれてくる。
時を同じくして、伝子と高遠がやって来て、依田と合流した。
「南原の具合は?」と伝子が依田に尋ねた。「今、手術を終えて帰って来ました。左肩甲骨の裂傷。頭には異常ないそうです。」
「分かった。」伝子が病室に入ると、蘭が泣きじゃくっていた。「お兄ちゃん、お兄ちゃん。死んじゃ嫌だ!」「死なないよ、蘭。当分入院だがな。」
「先輩いい。」蘭は伝子に抱く付き泣いた。
「ご家族かな?おや、大文字さん。」と、やって来た高遠に本庄医師が言った。
「高遠君。お知り合い?」と後から続いた池上葉子が言った。
「妻の高校の時の後輩です、南原さんは。」と、高遠が応えた。
「ご家族は?妹さんだけかな?」と本庄が尋ねると、依田が、「今こちらに向かっていますが、夜中になるかも。」
「妹さんは取り乱しているようだから、高遠君に説明しておくわ。親御さんが見えたら、また説明するけど。命に別状はない。左の肩の裂傷は手術したわ。回復は3ヶ月から半年はかかるかも知れない。リハビリも必要ね。」
「リハビリ仲間が出来たか。」と、物部が入って来た。「ごめんなさい。さっき高遠が入って行くのを見かけて。」
「おや。物部さんの知り合いでもありますか。」と本庄が感心した。
廊下で様子を見ていた愛宕が、「先輩、ちょっと。」と伝子を連れ出した。
「南原さんを撥ねた車ですが、後続車のドライバーの証言とドライブレコーダーで判明しました。公安が追跡していて、パンクした為にコーンを出していた南原さんに気づかず撥ねて逃走したようです。で、大使館に逃げ込んだようです。それで、ご存じのように・・・。」愛宕を遮って、高遠が「外交特権、ですか。」
「その通り。だから警察は迂闊に手を出せない。」と、管理官と共にやってきた筒井が言った。「あ、大文字の元カレ。」と物部が言うと、「こんな時に茶化すなよ。で、わざわざ、それを伝えに来たのか、筒井。」と伝子は言った。
「釘をさしに来たんだ、大文字君。」と管理官が言った。「君は、後輩のことになると、熱くなるからなあ。」「なんかやらかすと?」
「やりかねない。と管理官が言い、
「やりかねない。」と筒井が言った。
「やりかねない。」と依田が言った。
「やりかねない。」と物部が言った。
「やりかねない。」と愛宕が言った。
「やりかねない。」と高遠が言った。
「学。お前まで。庇えよ、夫なら。」
「ふふふ。多数決で大文字さんの負けね。とにかく、ICUには入らなくていいけど、暫く入院。ですね、本庄先生。」
「はい。応援団がこんなにいるんだ、早く回復するさ。南原・・・蘭さん。急がなくてもいいけど、着替えとか持って来なさい。」
二人の医師が去った後、大文字管理官も筒井も急いで帰って行った。
「ヨーダ、明日荷物運んでやってくれ。この際、蘭と付き合おうなんて思うなよ。」
「思いませんよ、怖くて。」「ヨーダ、一旦帰れよ。親御さんが来られたら、僕らも帰るから。」
「ん。任せた。蘭ちゃん、必要な物があったら、連絡して。大家さんに頼んで出して貰うから。」「ありがとう、依田さん。」
依田が帰った後、伝子は「私たちはロビーで待機しよう。なんかあったら。Linenで知らせてくれ。」と言って、伝子たちは移動した。
3時間後。蘭から『目を覚ましました』とLinenで伝子に連絡が入った。
伝子と高遠は病室に急いだ。
「南原。目を覚ましたか。私が分かるか?」「先輩。」「手術は成功した。暫く入院生活だが、辛抱しろよ。」「先輩。復讐しないで下さいね。僕ももっと車側にいれば良かったんです。」「不可抗力ですよ、南原さん。相手は前なんか見ていなかったから。」と高遠が言った時、看護師と医師がやってきた。
「南原さん。分かりますか?脳に異常はありませんでした。肩の裂傷は手術して繋げました。骨にヒビは多少入っているかも知れないが。大丈夫。半年もすれば退院出来ますよ。」
他の看護師が南原の両親を連れて来た。「済みません。龍之介、大変だったね。」と南原の父、直也が言い、「あなたは、確か大文字さん。コーラス部で龍之介とデュエットしてくれた・・・。」と、南原の母、京子が言った。「よく覚えてくれて。大文字です。夫の学です。」
『デュエット』の言葉に高遠も蘭も目を丸くしていた。
「丁度良かった。今ご本人に知らせていたところです。息子さんは、車に轢かれて転倒しましたが、後続車がすぐに救急車を呼んでくれたのが幸いして、頭に怪我はなく、肩も手術出来ました。半年くらいは入院生活で大変でしょうが、まだ若いし回復出来ます。リハビリはうちでも出来ますが、提携している池上病院のリハビリ科も紹介出来ます。妹さんはショックが大きかったようです。ご両親で支えてあげて下さい。では。」
医師は看護師達と去って行った。「とうさん、かあさん。ありがとう。僕も蘭も心配かけてばかりで。この間、引っ越したのが悪かったって、蘭は自分を責めてばかりで。」
「交通事故じゃないか。気をつけていたって避けられはしない。そうですよね、大文字さん。」「お父さんの言う通りです。南原、これからお前がやることはエネルギーを回復に向けることだ。あ、学校へは?」
「私が連絡しました。」「しっかりしているじゃないか、蘭ちゃん。新しい部屋に落ち着く暇がないかも知れないが、頑張って。」と高遠が励ました。
「じゃ、学。後は家族に任せて我々は引き上げよう。」
伝子の車の中。「やっぱりヨーダには勿体ないな。」「え?手を出すなって言ったでしょ、伝子さん。」「けしかけてんだよ。でも無理かな。」「よく分からない。ところで、何でしょうね、その逃走車。」「公安に追いかけられたってことは何かヘマしたんだよ。いつかまたヘマをするさ。福本には南原のこと伝えたのか?」「伝えました。当分、交通安全教室は南原さんの人脈なくても出来るけど、老人会の特殊詐欺教室の人脈で出来ないって。でも、愛宕さんから連絡あって、警察の方で用意出来るから、可能な日はボランティアで協力して欲しい、って言われたそうです。」
「うん。愛宕や久保田さんにも人脈はあるだろうからな。」
伝子のマンションの駐車場。隣の藤井がやって来て、顔を出した。「はい。お夜食。依田君から連絡あったわよ。交通事故だって?大変ねえ。」と、おにぎりを差し出した。
伝子のマンション。「助かるわね、いつも。」「うん。このところ、藤井さんにお世話になってばかりだね。何か買う?」「うん。学に任せる。」
南原の病室。伝子と高遠がやって来ると、蘭が来ていた。
「蘭。今日、美容室は?」「出勤したら店長に怒られちゃった。三日間は休暇取りなさい、って。」「いい所に勤めたな。で、お父さんお母さんは?」「お父さんは帰りました。お母さんは当分お兄ちゃんのアパートにいるって。今朝、依田さんが病院まで送ってくれました。いい人ですね、依田さんって。」「まあな。大家さんの口癖があってな。その内、蘭も言われるぞ。」
「依田君はね、おっちょこちょいだけど、いい人なのよ。」と、高遠が真似をした。
「いつもいつも済みません。」と南原が目を覚まして言った。
「ねえ。お母さんが言ってたけど、お兄ちゃんが先輩とデュエットしたって、本当?」
「ああ。本当さ。揉めたんだよ。文化祭に南原を出さないのが当たり前だ、って部長が言うから。当時。いや、今もなのかな?コーラス部に入るなんて男はいなかった。代々年に一人くらいだった、男子部員は。女性コーラスに一人だけ男って汚いなんて言いやがって。毎日欠かさず発声練習来ているのに。南原は張り合いが無くなって、辞めると言い出した。」と伝子は当時の思い出話を始めた。
「私は南原が不憫でなあ。部長と顧問の秋野先生に掛け合って、デュエットを歌うことになった。そんなに言うなら、お前がやれ、って上級生に言われて、さ。」
「伝子さんらしいな。」と高遠が言うと、「高遠さんも知らなかった?」と蘭が不思議がった。「僕らは大学の先輩後輩だよ。南原さんのエピソードは初耳さ。」
「ね、歌ってよ。先輩。」と蘭がねだった。
『夢路より かえりて
星の光 仰(あお)げや
さわがしき 真昼の
業(わざ)も今は 終わりぬ
夢見るは 我が君
聴かずや 我が調べを
生活(なりわい)の 憂いは
跡(あと)もなく 消えゆけば
夢路より かえりこよ』
途中から、南原が唱和したが、顔をしかめた南原を見て、伝子は歌うのを止めた。
「すまん。大分回復してからの方がいいかもな。」と、伝子が言った時、看護師長が入って来た。
「随分、楽しそうね。点滴変えますよ。」
言われた3人は廊下に出た。
点滴の交換を終えたのを見て、暫く眠るだろうと考えた伝子は3人で病院の食堂に行き、コーヒーを飲んだ。
「やっぱり。高遠はともかく大文字は目立つからな。」と物部が寄って来た。
「悪かったな、物部。暇か?」「ああ。薬待ちだ。で?大丈夫なのか、南原氏は。」
「まだ昨日の今日だぞ。」「明後日の蘇我の墓参りだが・・・何なら中止してもいいぞ。俺と逢坂だけでもいい。」
「今のところ、大丈夫だ。」「そうか。まあ、事件が大文字を呼ぶんだけどな。」
「嫌な言い方をするなよ。ああ。この間のコスプレ衣装、助かったよ。」
「はは。逢坂と一緒に行ったもんだから、奥様には少し大きいかしら?パーティーやるんですか?結婚記念パーティー?」なんておしゃべりして来て、閉口していたら、「主人が誕生日パーティーやるって聞かないもんですから。」なんて調子合わせて、オロオロしたよ。」
「と言いながら、まんざらでもなかった、とか。副部長と逢坂さんならお似合いですよ。」「からかうなよ、高遠。」
「栞は安くないぞ。」「いくらだ?」「3億。」
蘭がゲラゲラ笑い出した。「俺、少しは役にたったか?」と物部が問うと、伝子と高遠が揃って「じゅうぶん。」と応えた。
伝子のマンションの駐車場。藤井が寄って来た。
「どうだった?」と伝子に伝えた。「本人は案外冷静だった。妹がなあ。」
「ショックだったのね。」「お父さんは帰られたが、当分お母さんがいるらしい。」
「まあ、交通事故は大体が不慮だからね。大文字さん、お母さんが来られたから、入れてあげたわ。合鍵渡してないの?」
「ちょくちょく来るわけじゃないしなあ。まあ、いいですよ。入るぞ、学。」
伝子のマンション。
「お母さん、来る時は言ってくれよ。」「ちょっと、ついでに寄ったのよ。藤井さんに聞いたけど、あなたの後輩、交通事故に遭ったんだって。」「前見ていなかったんじゃないかって。」「酷いわねえ。」「ああ、その後輩、覚えてない?南原。あじさい高校のコーラス部の後輩。」「ああ。文化祭であなたとデュエットした人。」
「お母さん、会ったことおありなんですか?」と学が尋ねた。「ええ。デートさせたくないから、ウチで練習させたのよ。あの頃・・・。あ、いけない。」
「あ、お義母さん。その服装は?」「ああ。この?復職したのよ。これでも、介護福祉士よ。」
学がコーヒーを炒れた。「上手いわねえ。」と、綾子は伝子と言い合った。「この間、物部副部長に貰ったんです。」「代金は?って尋ねたら『試供品』だって。今度買いましょうか?伝子さん。」
「あ、そうだ。あなた、『つわり』はないの?」「何いきなり。吹き出しちゃうよ。」
「あ、あの。妊娠が判明したら、真っ先にお知らせしますから。」「やることやってるのね、学さん。」「はい。」
「あ。愛宕だ。SOS。出動願います、だって。私は警察の人間じゃないぞ。ちょっと行って来る。後は任せた。」
「あ。後は任せたって・・・お義母さん、クラシック好きですか?」と高遠は言った。
警察署。入り口に入ると、何人もの警察官が敬礼した。「あ。ども。」と伝子は軽く挨拶した。みちるがやって来て、生活安全課に通された。
「こんにちは。あ、もうこんばんはか。こんばんは、大文字さん。」と久保田が挨拶した。「実は、この方のお母さんの介護のことでね。」「介護のことなら、区役所でしょう。」
「先輩。」と呼ばれて伝子は気がついた。「山城じゃないか。書道部の。」
「書道部。ひょっとしたら、愛宕さんの?」と、高遠が言うと、「そう。愛宕同様、山城は東野中学の書道部の後輩だ。」と伝子が応えた。
「どういうことだ、愛宕、山城。」「先輩。山城の叔父さんが、山城のお祖母さんのことでケアマネジャーさんと揉めているらしいんです。先輩の言う通り、介護は区役所の管轄だし、警察は・・・。」「民事不介入、だろ。自分たちで話し合えってか。で?」
「大文字伝子なら仲裁出来る、と。」と、高遠が言うと、「流石、高遠さんは察しが早い。」
「んんむ。取りあえず、会う日時を決めてくれ。それから、愛宕も来い。」「え、だって、民事不介入・・・。」「友人の立ち会い、だ。そういうスタイルならいいでしょう、久保田刑事。介入するのは私だ。」「しかるべく。」と久保田刑事は頷いた。
山城の叔父、一郎のアパート。
「なるほどねえ。トイレに行きたいお母さんの意思は無視ですか。」「回診のお医者は、膝の痛みが緩和されているのなら、元のように、トイレ誘導していいよっておっしゃったのに。」
「トイレ誘導とは、トイレに連れて行き、用を足させることですよね。」と、愛宕が言った。
「はい。前にもコロニーが流行った頃、お医者の判断を無視して独自のコロニー対策をやったことがある。私が必死にウイルスのことを勉強して提言されても無視。そんな介護施設です。もう引っ越しする余裕も無いし、私も病気持ちだし。病気持ちだからこそ自宅で介護出来ないから施設に入って貰っているのに。」と、泣きながら一郎は言った。
「事情がありそうだな、施設に。ケアマネジャーが味方しないのも気にかかる。愛宕、財政状況は分からないのか?」「はい。『抱え込み』があったらしいことは分かっていますが、それ以上は。」と、愛宕が応えた。
「抱え込み、って?」と首を傾げる伝子に、「それまで通っていたデイサービスを止めさせ、自分の所のデイサービスに通わせたんです。」と順が応えた。
「厚労省は?」「ちょっと注意。事実上黙認です。厚労省はコロニー対策も高齢者施設にろくな対策を講じませんでした。施設では、防護服も防護ゴーグルも配布されず、介護士はマスク1枚で入居者の介護を行っていたんです。」
「で、お母さんは、トイレで立てない証拠は?」「ありません。お医者の判断でもありません。私は、隣に建てた、この会社の別の施設、有料老人ホームが関係していると思います。介護士を増員していないんですから。」「増設して、増員していない?それで介護が行き届くんですか?」
暫く腕組みをしていた、伝子は「よしっ!作戦開始だ。」と、立ち上がった。
山城の祖母和子が入居している、『サービス付き高齢者向き住宅どこでも』事務所。
車椅子に乗った福本日出夫が施設長佐野美紀子の向かいに座り、福本英二が施設長の横で書類を書いている。「これでよろしいですか?」と英二が言った。福本はキャッシュを施設長の前に積んだ。「はい、結構です。」
祥子が廊下に出て、スマホで連絡した。依田、松下、本田が荷物を手際よく運び込んだ。部屋は山城の部屋の隣だ。
福本は、「専属の介護士さんです。」と、施設長に紹介した。介護士に扮した綾子と栞が荷物運びの隙間を縫って入館した。
既に、山城の友人として山城和子の部屋に入室していた高遠が合図を送った。
するっと、入室した綾子と栞が手際良く和子をトイレ誘導した。高遠は、山城と談笑しながら撮影した。
10分後。綾子と栞が退館した。1時間後。福本と日出夫は、車椅子移動車にさっと乗って、「食事」に出掛けた。
更に、10分後。依田、松下、本田がトラックで帰って行った。また、別行動で高遠が施設を出た。
その頃、山城のアパート。順と山城家のケアマネジャー平本と伝子が向かい合っていた。「これを見て下さい。あなたが言う『2人がかりでも介助できない程』ふらついていますか?」
「たまたまでしょう。」「じゃ、1週間、いや一ヶ月試しますか?あなた、山城さんに脅迫めいた言葉も吐いたそうですね。」と伝子が言い、「退職した施設従業員の何人かから聞き取れました。施設は自転車操業のようですね。離職者が多くて、新しく作った隣の施設の介護職員もなかなか応募者がいないのだ、と。全くのブラック企業だって言っていましたよ。」と、愛宕が言った。
「あなたは?まだご紹介頂いておりませんでしたが。こちらのお孫さん?」「みたいな者ですが、警察官です。あなた、施設から『山吹色の饅頭』を貰いませんでしたか?」
「ははは。まるで、時代劇だ。賄賂を貰ったとか言っています?」「あなた、自動車のローン、返せてますか?順調に。」平本は黙った。
1時間後。介護施設。便利屋のトラックが着いた。佐野が怪訝な顔をして、「何かの間違いでは?」とトラックの運転手に尋ねた。運転手は契約書を見せた。瞬く間に福本日出夫の荷物は消えた。
30分後。みちるとあつこが制服姿で現れた。「この男に見覚えは?」「はい。」「こいつは窃盗団の親玉です。」「荷物は?」「先ほど、便利屋さんが・・・あ、名刺を預かっております。」「指紋が着いているかも。巡査。ビニール袋を。」「はい、警部。」みちるがあつこにビニール袋を差し出し、手袋を嵌めたあつこが名刺を入れた。
「他に残して行ったものは?」佐野はキャッシュの入った鞄と契約書を差し出した。
「後日、署から捜査員が来るかも知れません。ご協力ありがとうございました。」と、二人は敬礼して出て行った。
30分後。「これで、トイレ誘導を再開させて頂きますね?介護計画も練り直して下さい。何なら専門家に改めて検証させましょうか?医療の専門家じゃないでしょう?あなたも施設の介護士さん達も。」伝子の合図で高遠はICレコーダーのスイッチを切った。
翌日。南原の病室。
『涙くんさよなら さよなら涙くん
また逢う日まで
君は僕の友達だ
この世は悲しいことだらけ
君なしではとても
生きて行けそうもない
だけど僕は恋をした
すばらしい恋なんだ
だからしばらくは君と
逢わずに暮らせるだろう』
看護師の付き添いでやって来た、服部がギターを弾き歌い、南原と伝子も一緒に歌っていた。「看護師さんが、教えてくれてね。再会出来て良かったよ、南原。」と服部が言った。
「彼は服部源一郎。コーラス部誘ったんだけど、方向性が違うって。」と南原が言うと、伝子は「仕方ないさ。クラシックが主流のコーラス部じゃな。先輩達は頭が堅かった。」
「やあ。また盛り上がってるなあ。」と久保田管理官が言った。「大文字君、少し質問があるんだが。お母さんは介護士?」「元介護福祉士です。復職しました。」と伝子が応えた。
「では、逢坂栞先生は?」「介護士初心者研修の資格があります。」「では、何故、白藤みちる巡査と渡辺警部は介護施設に存在しない窃盗団を追いかけて行ったのかな?何故福本日出夫は介護施設に一日入居しようとしたのかな?」
「意地悪言わないで下さいよ、管理官。」「何とかしておくよ。」管理官は苦笑いをし、やがて高笑いに変わった。
―完―
大文字伝子が行く16 クライングフリーマン @dansan01
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