第16話 星猫編  星猫③

「サーヤさんは、ティナさんと同じ女神。下界の守護者って認識でいいんだよね?」


「その通りです」


「じゃ、なんでラムタ世界に来たの?って言うか、ここと下界は隔絶されてるはずだよね?どうやって来たの?」


サーヤさんに聞いてみた。


答えは意外なものだった。




サーヤさんは、女神の中でもランクはあまり高くないと言う。


下界を任されるまでには至らず、『星猫の管理』を任務としていた。


私の肩の上でミサキさんにじゃれ付く星猫は、銀河の卵だと言う。


1つの銀河は、消滅するまでに1度だけ星猫を産み落とす。成長した星猫はいずれ、多くの星々を抱える銀河となる。


貴重な存在であり、その価値は天文学的な値となる。ゆえに狙う者が現れる。


サーヤさんは、そんな輩たちから星猫を守り、汚れないように育ててゆくのが仕事だった。


今回星猫を狙っていたのは、魔界の一族『ベルゼゼブ一族』。魔界の連中にしては科学を重んじる一族で、他族とは違い、科学力を有している1族。


ベルゼゼブたちが操る翼竜に追われ、天界にSOSを入れた後、星猫を抱え逃げるが、目の前にゲートが開き、中に飲み込まれたらしい。


ゲートから出たらラムタ世界だったという。


つまり、ロプロスはベルゼゼブ一族が操り、サーヤさんを追って穴に入ったようだ。




「マスター、王様たちのお部屋の用意が出来ました」


リアちゃんから報告が入る。


王宮は使えなくなる。別荘もあるが、警護の関係から今晩はスノープリンセスで休んで貰う事にする。


「すまんな、世話になる」


こんな時でもきちんと礼を言うゴルノバ王。


「ソーマとヘレンはいったん帰宅。もう遅いから帰って寝る。職員を付けるから、送って貰って」


もう夜中だ。子供はお眠の時間だ。


「俺たちもギルドに泊まるぜ。もう職員だしな」


「うん。お部屋は1つで構いません。夫婦なので」


・・・・。


「リアちゃん、205と209を用意してあげて」


わざと離れた部屋にしたのは、私の嫉妬だ。




「王様、実はミサキさんが、スノーに入りたいって言うんだけど」


流石のゴルノバ王も目をしかめた。


そりゃそうだ。幽霊だし、世界の大罪人だ。


「私は有能ですよ。なんといっても、この雪姫を追い詰めたのですから。ひゃはははは!!」


口出すな。しかもそれダメだろ。


「雪姫さん、さすがにそれは難しいですわ。幽霊なら見て見ぬ振りもできますわ。でも正式にメンバーとなると、世論もありますわ」


ステラ女王のお言葉はもっともだ。


「言い出したら聞かないからな・・お前は。お前が説得しろ。8か国会議を開いてやる。そこでお前が7か国を説得して認めさせろ」


って成るような気がしてたんだ。


「わかりました。自分で何とかします」


「ああ、お前の信用は他国でも高い。分かって貰えるかもしれん」


「そうですわ、いざという時は得意の『アレ』ですわ」


王は7か国と言った。つまりルーラン国王としては、反対ではないと言う事だ。


熱意と熱弁。そして凍りで押し切るしかない。


あとは・・・。




「ルナさん、ドワーフさんにお願いして、王宮の再生って無理かな?」


大分都合のいいお願いだが、今なら頼めそうだ。


「何を言ってるんですか?ドワーフ様は便利キャラではないのですよ。そんなことは、お断りします」


だよね。それが普通の返事。と言うか、世界に関与しないのがドワーフさんの方針だよね。


「じゃサーヤさん、神の加護で、この建物って直せないかな?」


「再生ですね、もちろん簡単です。女神ですから」


「ちょっと待ったぁぁぁ!」


ほらルナさんが食いついた。


「ラムタ世界の神は私たちです。世界の人たちが苦しんでいるなら、手を差し伸べるのが神です」


「私は神以上の方から頼まれました。神の言葉など、神以上の方の言葉に比べたらゴミです」


ゴルノバ王へのお礼のために、ここは関係を利用させてもらう。


「ずるいですね。あなたがズルをするとは思いませんでしたよ」


ミサキさんが言うが、そお?結構打算で動くタイプなんだけどね。


「それより、この猫、何とかしてください。私は動物の類が大っ嫌いなんです」


相変わらず肩の上で、ぷかぷか浮かぶミサキさんにじゃれていた星猫。


「あははは。好かれてるんだからいいじゃない」


迷惑がるミサキさんに言う。


「しかし雪姫、あまり神同士を煽らない方がいいですよ」


ん?




私はミサキさんの言葉を甘く考えて、聞き流してしまった。


この後、厄介な事が起こるとも知らずに・・。






その頃、昆虫域の北の果てでは。


「ここって、ラムタ世界だよね?」


「ああ、科学班の計算が正しければな」


「意外と普通なのね?重力の底だと言うから、もっと凄い処だと思っていたわ」


犬の尻尾を生やす冒険者風の少女。


屈強な肉体に、力強い髭を生やす男。


深紅の和服に身を包む、妖艶な美女。


3人がゲートより出て来ていた。


「時間差から、女神サーヤが来て間もないころのはずだ」


男の名は『パルム』。元勇者で歴代勇者ランクは3位。勇者ケインのチームの別動隊として、妻『セシル』と、ケインの娘『アリッサ』と共に行動していた。


「なんか寒いわね。早く『柊』さんを見つけましょう」


セシルが言う『柊』とは、雪姫の本名『柊ほのか』の事だ。


「うん。現在地固定。これで30日後に自動でゲートが開くよ」


アリッサは専用の機器で座標の固定をした。




「って言ってもな、ここが何処だかも分かりゃしないし、ラムタ世界は広いぞ。どうやって1人の人間を探すんだか?」


パルムは周囲を見渡すが、周りは全て木々。


「そうよね。ラムタの柊さんだけで探し出せって、ケインも無茶言うわよね」


セシルは懐から雪姫が映る写真を取り出した。


「柊さんは、この世界でギルドって言う組織の代表だよ。有名なはずだし、凄い魔法を持ってるから、知ってる人は多いはずだよ」


アリッサの言葉にパルムが言う。


「とにかく動こう。此処に居ても始まらない。住人に聞きながら、街を目指すんだ」


「そうね。サーヤは隠密行動してるはずだから、柊さんに協力して貰って探しましょう」




下界では、女神サーヤと星猫が消えたことで、女神たちによる大規模な捜索が行われた。


しかしサーヤの反応はなく、捜査は手詰まり。


捜査を依頼されたケインたちは、サーヤが発したSOSの場所の近くに、重力異常が見つかったことで、穴の可能性を考えた。


雪姫の帰還後に研究が進み、ラムタ世界へのゲートを開く事を可能にしていたケインたちは、別動隊であるパルムチームをラムタ世界へ送ることにした。




3人は女神サーヤが消えたことで、ケインが送り込んだ捜索隊だった。

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