第17話 星猫編  星猫④

「いい湯を貰った。感謝するぞ雪姫」


「久々の王宮以外のお風呂でしたわ。色々あった疲れが吹き飛びましたわ」


ゴルノバ王とステラ女王が、リアちゃんの用意したお風呂から上がってきた。


「5mの飛び込み台がないお風呂って、新鮮だったよ、ゆっきー」


ヤモリは桶で水浴びでもしてろ。って飛び込み台のある風呂がどこにある?


「満足いただけで何よりです。リアちゃんも喜びます」


王たちは来賓用の部屋に泊まってもらう。


既に夜も遅い。2号店の面々とは一旦解散し、私たちはギルドへ戻っていた。




「雪姫、俺たちの部屋、同じで構わないぜ」


「うん。ダブルベットがあれば十分です」


今リアちゃんが、離れ離れの部屋を用意してるからね。


「雪姫、気が付いてますよね?」


星猫の手から逃れながら、ミサキさんが言う。


「うん。ロプロスの事だよね?」


私は自室に戻ると、打掛と色無垢をパジャマに着替え、ベットに腰かけた。


「サーヤは逃げていました。偶然に穴は開くでしょうか?」


そこだ。ベルゼゼブとかいう連中はロプロスを操る。そして科学が進んでいる。何らかの方法で、『ラムタ世界とのゲートを繋げた』と考えられないことはない。


仮説だが、下界は女神の目がある。女神の目の行き届いていない世界。『ラムタ』を知っているとすれば、格好の追い込み場所となる。


だが偶然の方も、可能性としては捨てきれない。


「今はまだ情報不足かな?」


「嫌な予感がしますね。何かのフラグが立ち、ルートに入ったような?」


相変わらずゲーム思考だ。


「それより、ありがとう」


ミサキさんがいち早く穴に気が付いた。行動が遅れていたら、王宮の倒壊に人的被害は甚大だったはず。王様達も無事では・・・


「な、なにを改まって・・」




「私さ、ミサキさんと話してみたかったんだよ。できれば戦う前に・・それが出来なかったことが悔しくて・・」


ミサキさんは静かに答えてくれた。


「たぶん無理でしたね。生前の私は、あなたを格下に見ていました。あなたの声は、私には届きませんよ。


・・・・・私が、あの戦いに勝っていたら、高笑いで貴方を見下していたでしょう。『やはり私は強い』とね。


霊体になった私は、死んで初めてわかりましたよ。あなたの上げてくれた弔砲の意味が・・私は力に溺れたバカでしたよ」


私の取った行動は無駄にはならなかった。


あの弔意を込めた弔砲は、ミサキさんへ届いていた。


「そして私では『厄災』は乗り超えられていません。金剛鬼姫には勝てなかったでしょう。あなたとスノープリンセスが、『世界を救った』と、素直に認めていますよ」


「私とスノーじゃないよ。世界で、だよ。ミサさんが作った世界だけど、その前の世界はミサキさんが作ったんだ。雛形はミサキさんが作り、ミサさんが育てた世界で勝てたんだ」


「ええ、あなたは分かってくれていた。私はそれが嬉しかったのです。そして自分の・・道を踏み外し、自ら仲間を手放した自分が・・愚かな自分が・・馬鹿な自分に私は未練が残り、成仏が出来ずに幽霊となったのですよ」


ミサキさんは分かってくれていた。だが、本当の意味での『分かった』には、届いていない気がした。






「しかし雪姫、あなた、いつからあの作戦を考えていたのですか?穴に落として止めを刺すという、あれは?」


ああ、だいぶ考えての作戦だったかな?


「ミサキさんって、思うようにいかないと『イラッ』とするタイプだよね。他のミサキさんの動きで、なんとなく分かったからさ、メンバーでチクチクやれば、冷静さを失って嵌ってくれるかな?なんて思ってね」


ミサキさんの頬がヒクッとした。と、同時に星猫から猫パンチが飛んでくる。


「今、久々に『イラッ』としましたよ」


あれぇぇ?正直に答えただけなんだけど。


「なんですか?その『なんで?』って顔は?星猫だって猫パンチをしたではないですか?」


あはははは・・なんか仲いいね。




この日の晩は、遅くまで語り合った。


敵として戦ったミサキさんは、その過ちに気が付き、今度は共に世界を守ると言ってくれた。


私は、幽霊のミサキさんをスノーに迎い入れる決心をした。


翌日ゴルノバ王は、ギルドに8か国会議の面々を集めてくれた。ギルド会議室に、世界の代表たちが集結した。






「オリジナル!」「化けて出るとは!」


ミサさん、サキさんの剣が左右から飛んできた。


「絶対防御!きゃはははは!あなた達の剣では、私は斬れませんよ!」


2人の剣は、私の肩の上に浮かぶミサキさん目掛けて。


ミサキさんが絶対防御を使わなかったら、私の顔は上下に寸断だった。


私への敵意の無い攻撃なので、たぶん打掛は守ってはくれない。


「雪姫への攻撃は俺が許さん」


ギムがミサさんとサキさんの前に出る。目がマジだ。


「はいストップ。ミサさんとサキさんも落ち着いて。ギムは下がって良し」


私を守ってくれるギムは偉い。でも、下がらせる。


「たぶん2人は賛成してくれないと思うけど、私は決めたの。幽霊のミサキさんを、私付けの『付き人』にするってね」


会議室に居る世界の代表たちから、驚きの声が上がった。


「な、何を言い出すのです!分かっているのですか?こいつは・・」


「雪姫さん正気ですか?世界の大罪人なんですよ!」


ミサさん、サキさんは当然、ミサキさんを良くは思わない。ミサキさんから生み出されたクローンである2人は、過去の遺恨がある。


「うん。正気だよ。おかしくなった、と思われることを言ってるのも分かってる。これは私の我が儘。でもスノープリンセスは私のギルドだ。人事は、私の好きにさせてもらう」


勿論、テレサや飛鳥さん、ダイルやトーマ他、ジェームス係長以下、ギルドの面々には承諾してもらっている。概ねいい顔はしていないが、私の決定に従ってくれた。


「信じられません・・・」


「何をお考えですか?」




「私はミサキさんと戦い、ミサキさんを殺した。そのことに罪を感じているわけじゃない。


私が感じている罪は、ミサキさんと言う世界に貢献した人と、話し合わなかったこと」


私は自分の考えを正直に話した。


ミサキさんは300年前に穴から落ちてきて、人々共に生き、世界のひな型を作り上げた。


途中でクローンのミサキさんと入れ替わり、その後世界は1つに纏まっていくが、ミサキさんの残した礎があったからこそ、クローンのミサキさんは、短時間で世界を纏め上げられた。


もし『ミサキ』という人物がいなかったら?


やっと戦争が終わった世界が、たったの300年で1つに成れたか?


厄災の到来に間に合ったのか?




私の言葉に、世界の代表たちは、返す言葉を失った。


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