第10話 星猫編  雪姫、憑りつかれる④

え?・・・それって・・?


「あなたに憑りついた私は、あなたの『恥ずかしい写真』が撮り放題なんですよ」


なんだとぉぉ!!!!


「お風呂や寝顔、着替えや、お・ト・イ・レもですよ」


うわぁぁぁぁぁぁ!!!過去最大のピンチだ!乙女として絶望的なピンチだぁ!


「きゃはははは!!恨めしや―万歳ですよ!」


不味い・・不味すぎる。変な写真をインスタにUPされたら、終わる。絶対に終わる。


「流石にトイレ画像はないよな」


「うん。私なら死んじゃうよね」


私でも死ぬよ!


「あ、あの、マスター。ジェームス係長にご相談したらいかがですか?」


ジェームス?そうだ!情報部なら何か情報があるか・・・


あれ?情報部?なんか色々理解しちゃった気がするんだけど、後回しだ。


私はギルドへ戻り、ジェームス係長を呼んだ。






「これはこれは・・・初代のミサキですね」


そうなんだ、実はこれこれこういうわけで、過去イチピンチなんだ。


「幽霊が生前のスキルを使えることは珍しくはありませんが、機器が使えると言うのは、余程その機器への思いが強かった・・という事でしょう」


ゲーム廃人のミサキさんなら、スマフォは必需品だ。




『そんなの簡単だろ』


やっぱりだ!!


声の主はボンド部長だ。私は幽霊と情報部で、あることに気が付いていた。


優秀過ぎる情報部。ありえない情報を持つ所以は、幽霊職員の存在にある・・と予想できた。


「流石はマスターです。もうご理解いただけたかとは思いますが、当情報部では、数体の幽霊職員の協力を得ております」


スゥーっとボンド部長が姿を現した。


「久しぶりだな雪姫」


考えたらマックスや白姫さんも幽霊の類だ。今更びっくりすることではない。


「うぉ!また出たぜ」


「これって呪われたりしないのかな?」


「はい大丈夫です。この方は職員です」


とリアちゃんが言う、と言う事は、幽霊職員の事をリアちゃんは知っていた・・という事かな?


「これは情報部でも極秘中の極秘。ギルド内で知る者は、故マックス様とDrゼロ様、秘書役のリアと私だけです。皆様も他言はなさらぬようにお願いします」


言えるかよ『スノーの情報部は、幽霊が情報収集してます』なんて。


「と言う事でだ雪姫、幽霊の活動エネルギーは霊力だ。ミサキもその法則からは逃れられない。浮遊状態では絶対防御も使えなかっただろうが、お前に憑りつくことで、色々と出来るようになったはずだ」


ボンド部長の言葉に、ミサキさんの顔から余裕が消えた。


「お前が着る打掛と色無地は、白姫さんの霊力の塊だからな」


なるほど!!!私に憑りつくことで、霊力を得ていたのか?


「くっ!余計なことを・・・」


私は救われた。悔しがるミサキさん。


「普通の服を着て、祈祷部隊に祈って貰えば、ミサキは消滅する」


消滅?成仏じゃなくて?


「成仏は幽霊本人が納得することで果たせます。祈祷は霊力を消滅させるもので、幽霊は霊力を失うと消滅してしまうのです」


完全に形勢が逆転する。ミサキさんは怯え震えていた。


「マスター、着替えてから、もう一度王宮へ行かれますか?」


リアちゃんの言葉。ミサキさんはビクッとした。


「うん、今は良いかな?とりあえず、お風呂やおトイレ、寝姿を写される心配がないしね」


そう、ミサキさんに敵意や悪意があれば、打掛が黙ってはいない。


多分だが、ミサキさんは、口で言うほど私を恨んではいないはずだ。


「それがよろしいですね」


「ああ、幽霊のミサキに、何もできる事なんかねーよ」


白姫さんが残してくれた打掛の力を、ジェームス係長とボンド部長は理解していた。




「リアちゃん、お神酒とお供え物、用意できるかな?」


「はい。葬儀部にあるので取ってきます」


私の動向を横目で見たミサキさんが言う。


「最後の御晩餐のつもりですか?私は成仏も消滅もしませんからね」


「違うよ。霊に対する礼儀と言うか、作法と言うかだよ。とりあえず1回話そうよ。私、ミサキさんと話がしたかったんだ」


「あなたと話ですか?お説教でも食らわすつもりですか?それとも、あの勝利の余韻に浸りたいのですか?」


根に持ってるな・・・。




「こ・・・これは?」


会話の最中にミサキさんが、何かを感じ取ったようだった。




「雪姫!警戒態勢です!」


ミサキさんが叫んだ。


「何をしています!『穴』です!穴が開きますよ!」


なんだって!?


「大きい・・・街の真ん中ですよ!」


私たちは慌てて窓を見た。


外は夜。王宮の真上の星空が歪んだ。


「ゲート!王宮に行く!2人は待機!」


私は指示を出すとゲートに潜る。


「緊急事態!穴です!真上に穴が開いています!」


玉座の間に出た私は、大きな声で叫んだ。


警備にあたっていた近衛兵の1人が、王たちの元へ行く。


「避難!急いで!」


もう1人の近衛兵が警報を鳴らす。


「俺たちは誘導だぜヘレン!」


「うん!皆さん、真上に穴が開きます!逃げてください!」


こいつら待機命令無視で付いてきたのか!?


「俺たちが先行するから、避難は任せろ!」


「うん。叫びながら逃げますね」


確かに理由が分かれば、行動も早くなる。


「よし、任せた!私は王様たちを避難させる」


玉座の間のフロアに居た侍女や近衛兵たちは、ソーマとヘレンの叫び声で、一目散に避難を開始する。


「雪姫!」


「雪姫さん!」


「ゆっきー!」


「早く!外へ!」


私と近衛兵は、王様たちを囲むようにして下に向かう。


が、凄い振動が起こった。穴が開いたんだ。


上の階が崩れた!瓦礫が・・・


「絶対防御!絶対防御!絶対防御!!」


!?ミサキさん?


守ってくれた?私や避難しているみんなを?


「急ぎなさい雪姫!何が出てくるか分かりませんよ!」


崩れ落ちた天井の瓦礫を、絶対防御の連発で抑え込んでいる。


「うん!いまのうちだ!早く避難を!」


「絶対防御!絶対防御!絶対防御!!!」


ミサキさんは絶対防御を連発する。


「雪姫!こっちは全員避難できたぜ!」


「夜でよかったね。あまり人が居なくて助かったね」


私たちは、瓦礫に押しつぶされることなく、外に避難できた。




外に出た私たちは、目を疑う。


王宮の上・・2フロア分が完全に巨大な穴に押し潰されていた。


「来ますよ」


ミサキさんが穴を指さす。そして中から何かが出てこようとしている。




「あれは・・・ロプロスだと!?」


ゴルノバ王が、いち早くその姿から巨大翼竜ロプロスと認識した。


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