第9話 星猫編  雪姫、憑りつかれる③

「ゆっきー、この二人、優秀だよ」


笑顔のクラリスが言うが・・えっと契約書はっと・・。




依頼主  プリンセスクラリス


依頼内容 幽霊を捕まえてくる


依頼金額 プリンセス割引使用 0G


違約金  10G


担当 ソーマ、ヘレン




ハイ却下。


私は契約書を破き捨てた。




「クラリス、前にも言ったよね?UMAとか、存在が確定していないモノの探査依頼は受けないって。それに違約金を設定って無いよ。うちで小遣い稼ぎを企むなら、凍らせるからね」


私の言葉なんか聞いちゃいない2人が震えていた。


「や、破いた!契約書だぞ!!」


「しかも脅した!不敬罪で首が飛んじゃう・・」


破かれたクラリスは『てへへ』って顔してるんだけどね。


「でも、今回は特別。リアちゃん、契約書作り直して。幽霊の探査には行ってあげる。費用もただでいいよ。でも違約金は無し。いいね?」


「了解。それでお願いするね」


只なのでクラリスも了承した。




「先日学校の写生会で行った所なんだけど、お友達が幽霊の声を聴いたとか、見たとか言うんだよね」


モンスターもいれば、喋る獣や花もいる。幽霊ぐらい居ても不思議ではない世界だから、居るんだろうが、捕まえるのはどうかな?


「マスター、ここって、迷い人の村の近くですね」


なら、帰りにミサさんに会ってくるかな?もうすぐ日も暮れるし、明日かな?


「行こうぜ!雪姫!」


「うん、幽霊なら夜の方がいいと思うな」


「ゲート石、ここの登録ありますね。行けますがどうします?」


リアちゃんが、クラリスが示す地図の場所の登録を確認してくれた。


「登録・・あるのか。じゃ行ってみようか?」


私は何気に決めてしまった。


「じゃ行ってくるから、クラリスは王宮で待ってて。窓から帰るなよ」


と言うと、私たちはゲートに入る。






「ここって・・・」


ゲートから出た私は、見覚えのある風景に、少し驚いた。


「ミサキさんと戦った場所だ」


戦いから2年ほどが過ぎた草原に、戦いの跡はない。


が、あの日・・私は此処で、ミサキさんを殺した。世界を我が物にしようとした大罪人を・・・あの日から、私が想い続けた、ある想いが蘇る。




戦わなければいけなかったのか?ちゃんと話し合う事を出来なかったのか?


同じ迷い人で、共に強い力を得た私とミサキさん。


そして見ていた先も『厄災』と同じだった。


迷い人の世界を作り、厄災を乗り切ろうと考えたミサキさん。


マックスと白姫さんの想いを受け止め、ギルドで戦う事を考えていた私。


リアルをゲームと勘違いし、道を外れてしまったミサキさんだが、この世界はミサキさんによって雛形が作られ、ミサキさんのクローン『サキさん』によって社会の形成がされた。


形はどうあれ、ミサキさんの世界への貢献は、鬼族との戦いで証明されている。


私は・・・


「マスター?」


物思いにふける私に、リアちゃんから声がかかった。


「あっ、ごめんね。ちょっとさ、あの日のことを思い出しちゃって」




『私を凍らせて、いい気になった事をですか?』


「え?」


私の耳元で声がした。


「マ、マスター!?」


「雪姫!それって」


「雪姫マスター!?」


「え?え?え?」


私は恐る恐る声のした方を見る。


ミサキさん!?


「キャハハハハハ!やっと会えました!憑りつかせ頂きますよ雪姫!」


幽霊って、ミサキさんの幽霊だったのか!?


「と、憑りつくって!?え!えええええ!!!」


私の肩の上に、ぷかぷかと浮かぶミサキさんの幽霊。


「よくも凍らせてくれましたね。しかも一刀両断で止めを刺すとは、酷いことをしてくれましたね。うらめしやぁ」


憑りつかれただとぉ!!!


「こいつ、大罪人のミサキじゃねーのか?」


「うん。TVで見た格好してるね」


「生体反応はありません。間違いなく幽霊さんです」


いや、今は誰がとか、幽霊とかじゃなくて、これ引っ剥がしてほしいんだけど。


私の手は、ミサキさんを払うように動くが、手はミサキさんの体をすり抜け、払えない。


「マスター、ミサキさんの幽霊に質量感知が出来ません。物理的アプローチは不可能です」


なら聖水とか塩とか豆とか、そうだ!十字架でもいいかも!


「馬鹿ですか?聖水は悪魔用。塩なんか屁でもありませんし、豆は鬼、十字架は吸血鬼です。私を払うことなど、誰にもできませんよ」


まずい!生きていた頃より厄介だ!


「雪姫、王宮に祈祷部隊が居るぜ」


「うん。お払いしてもらえるかも」


それだ!!霊を払うなら祈祷だ!


私は肩にミサキさんの幽霊を乗せたまま、王宮へ行く。






「ゆっきー・・・凄いね、捕まえてきたんだ?」


違う!!捕まえたんじゃない。捕まったんだ!!


「ミサキ・・か?」


「ミサキですわね」


ゴルノバ王とステラ女王は、一目で理解した。


「これはこれはゴルノバ国王陛下、ステラ女王陛下、お会いするのは初めてでございます。私は大罪人ミサキ。雪姫に憑りつかせていただきました」


肩の上で正座をし、頭を下げるミサキさんの幽霊。


「雪姫より礼を心得ているな」


「霊だけのことはありますわね」


ダジャレ言ってる場合じゃない!祈祷部隊呼んで!!!


「ひゃはははは!祈祷ぐらいで私が払えるとでも思っているのですか?祈祷師でもエクソシストでも呼ぶと良いですよ」


くそ!余裕綽々だ。だが王宮祈祷部隊は、悪霊払いのスペシャリストたちだ。成仏させてやる!


ゴルノバ王は、すぐに祈祷部隊を呼んでくれた。




「アノクタラサンミャク・・」


「南無阿弥陀・・・」


「テクマクマヤコンラミパスラミパス・・」


「臨兵闘者 皆陣列前・・」


祈祷師集団が来た!なんか変なの混じっているが、どうだ!?




『絶対防御!!!』




なんだとぉ!!!


「きゃはははは!絶対防御を持つ私に、呪文や祈祷は通用しませんよ」


なんで使える!?幽霊が何で絶対防御を使えるんだ!!


「なんで?そんなの私が知るわけないじゃないですか。使えるんだから使わせてもらいますよ」


これじゃ払いようがない!やばいだろ!


「流石に絶対防御を使われたら、祈祷部隊では対処はできんな」


「軍では対処できませんわ。専門家に相談ですわね」


専門家?幽霊の専門家?稲川さんとかか?


「後でミサとサキを呼んで聞いてやる」


「銀姫様が、何かご存じではないでしょうか?」


ミサさん、サキさん、銀姫さんか。なんか知識がありそう。


「ゆっきー、1枚撮らせて」


って、お前は何をのんきな!


「良いです。ほら雪姫、笑顔を作りなさい。プリンセスが撮ってくださるのですよ。もっと笑顔で」


くそぉーーーー!チーズ!だぁぁ!




「中々良い写りですね」


「でしょ、これをこうしてっと」


「ほーインスタにUPしましたか」


「もう『いいね』がついたよ」


インスタって…全国区で知れ渡ったのかよ!


『カシャ』


え?


「今の驚きの顔、頂きましたよ」


なんでミサキさんがスマフォを?


「ほら、良い顔ですね。この驚きの顔を・・きゃははは!もう『いいね』が10も付きましたか」


なんで幽霊が写メ撮れたりするんだよ!


「なんで?そんなの私が知ってるわけないじゃないですか。使えるんだから使わせてもらいますよ」


幽霊のくせに多芸だ!




「マスター。申し訳ありませんが、今晩から別室で休ませていただきますね」


リアちゃんの言葉は、私を恐怖のどん底に陥れた。

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