第8話 星猫編 雪姫、憑りつかれる②
「早いな。もう完遂か?」
「できる子は違いますわね」
受けてから2時間の超特急だったが、初のクエストは無事成功した。
やはり、2人の攻撃は魔物相手に抜群の効果がある。
私が手を出すことなく、ダンジョンの最深部まで行き、薬草を集めた。
事実上2人で達成させた実力は、既にAクラスの冒険者相当の力がある。
「初クエスト報酬だ。受け取るがいい」
おい・・・
「1万5千Gですわ」
台車に乗せたGが、私たちの目の前に運ばれてきた。
ギムが壊した賠償金として、私が支払ったのが1万4千G。1千上乗せした額だ。
「千は俺たちの気持ちだ。快く受け取れ」
「苦しいながらも、賠償金を、よく支払いましたわ。あなたのその誠実さが好きですわよ」
出来すぎ王だ。
この王と女王は、底知れぬ気づかいをしてくれる。
「お言葉に甘えます。ありがとうございます」
私は深々と礼をした。
そして、この大金を前に目を丸くする2人。
「すげー。薬草でこの報酬かよ。冒険者って儲かるんだな」
「うん。1週間働けば老後は安泰になるね」
と、思いっきりダメな勘違い。
帰ってから、ちゃんと説明せねば。
私たちは、台車を押してゲートでギルドへ戻る。
「おかえりなさいマスター。強盗でもしたんですか?」
笑顔でリアちゃんが言う。
私はリアちゃんとソーマ、ヘレンを椅子に座らせる。
「このお金だけど、王様が返してくれた1万4千Gは経費なの。報酬は1千G。本来のポーション用薬草採取クエストの相場は、30G程度だから、970Gが王様からのご祝儀。強盗でも、馬鹿儲けでもないから」
リアちゃんは納得で、ソーマとヘレンはがっかり。
2時間で1万5千の仕事があれば、私がお金で苦しむことはない。
「なんだよ。がっかりだな」
「うん。人生設計が狂っちゃったね」
20分間で人生設計建てるんじゃない。
「冒険者は報酬で稼げるけど、職員は給料制ね。いくら稼いでも月額は変わらないからね」
ちゃんと釘を刺しておく。
「まぁ、これが現実ってやつだよな」
「うん。リアルは厳しいからね」
10歳児のくせに、なんか悟っていやがる。
「これから2人には、ギルド幹部としてのカリキュラムを受けてもらうから。覚えることは山ほどあるからね。なんか質問があれば先に聞くよ」
少し考えたソーマが手を上げた。
「あのよ、質問じゃないんだけど、いいかな?」
「良いよ。なんでも思う事があれば聞くよ」
少し言い難そうにソーマが言う。
「雪姫、もう少し王様たちの前では、態度や言葉に気を使うべきだと思うぜ」
グハ!正論がきた。
「あのね、あの態度でいいって言われてるんだよね」
今度はヘレンが言う。
「良いと言われても、良識の範囲がね・・・」
グハァ!10歳児に良識を問われた。
「それによ、王様たちは良くても、あそこには侍女たちや、近衛兵たちもいるんだぜ。自分が仕える王に、小娘がため口じゃ、いい気はしないと思うな」
「うん。私なら嫌だな。首飛ばしちゃうかも」
グハァァァ。言い返せないド正論来たぁ。
「オヤジが言ってたぜ。雪姫は、たぶんもしかするとだが、礼儀知らずじゃない。礼儀の使いどころを知ってる奴だって」
「王様相手に使わないと、使う相手が居なくなりますよ」
10歳児に完全論破・・。
「以後留意します。諫言、痛み入ります。今後は・・」
言いかけた私は、窓に映る影に気が付いた。
「あれクラリス?」
王女クラリス。通称『やもり姫』。どんな壁でもスルスルと上り下りし、未だ入り口から来たことのない、王と女王の愛娘。
「ゆっき―――」
リアちゃんが窓を開けると、クラリスは、スルリと中に入ってくる。
「プリンセスクラリス!?」
「えっと、ご機嫌麗しく。お会いできて光栄です」
片膝をつくソーマとヘレン。
「危ないから、入り口を使ってって言ってるよね。落ちても責任とらないよ」
と言う私を睨むソーマとヘレン。
「聞いてたよ。ゆっきーは、本当にいいんだよ」
聞いてた?壁に引っ付いて、私たちの会話を?犯罪だぞ、それ。
「理由①。ゆっきーは無礼だけど不敬ではない。ちゃんとパパやママをリスペクトしてるんだなぁ。理由②。パパもママもゆっきー大好きだからね。理由③。下手の怒らせると凍らせるって顔するから」
①は良い、②もギリギリ人情で良しとする。でも③はダメだぁぁぁぁ!
「王宮の人たちも、表ずらだけじゃなく、私たちの居ないところでも、ゆっきーを悪く言う人なんかいないしね」
それ、壁にへばりついて聞いてるのかよ?王宮内でも盗み聞ぎしてるのか?
「私って、20mぐらい先の会話なら聞こえるんだよね」
もう人間やめたら?プリンセスヤモリで良いんでね?
「で、今日はパパから一杯貰ってたよね?私の依頼を只で受けてもらえないかな?」
なんか気分が良いから、今回は・・ってわけには・・そうだ!
「よし、ソーマ、ヘレン、クラリスの依頼、2人で聞いて判断してみな」
2人が驚く。
「幹部には、緊急性が有ったり、お得意様相手に『直接受諾』と言う、その場で自分の判断で依頼を受ける権限があるんだ。クラリスの依頼を聞いて、2人で判断して、どうするか決めて」
私は「任せたよ」と言うと、リアちゃんと部屋を出た。
「いいんですか?クラリス様は只を要求してきますよ」
当然不安に思うリアちゃんだが、2人の勉強にはなるし、クラリス相手なら多少のことは無茶できるからOK。
「2人の仕事に対する考え方も分かるし、これも経験だよ。失敗しながら覚えていくのが大事なんだ」
勿論失敗前提で考えている。
私たちは、1時間ほど席を外してから部屋へ戻る。
「どお?まとまった?」
私の質問に、笑顔のクラリスとソーマ達。
さてさて、どうしたものだか?
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