このメモリは安全に取り外せます(書きかけ放置)

「そういう噂も、ありますね。確かにある。しかしね、記者さん。それは噂ですよ。人間を媒介して感染爆発するコンピュータウイルスなんてのは、荒唐無稽にすぎる。そうは思いませんか」


 禿頭の男は、そう言って猪口を煽った。その隣で豆とひじきの煮物を突き転がす私は、ようやくその一つをつまみ上げ、口に運ぶ。


「とはいえ、噂が立つってことは、どこかに火元があるんですよ。火のないトコにになんとやらっていうじゃないですか」


 再び煮物の豆と格闘しながらいう私を尻目に、禿頭の男は可笑しそうに笑いながら徳利を傾けた。


「火のないところに火を付けるのが、君たちの仕事じゃないのかい?」


「ハハッ」


 私はコップの麦酒をグビリと干して、気持ち強めに卓に下ろした。他の客が何事かとこちらを見て、すぐに興味を失う。


「そういう、いきすぎた功利主義にズブズブになって、職業倫理をかなぐり捨てたようなのは、居ますがね」


「君は違った」 


 私はコップのフチを弱く指で弾いた。


「だからこうして、安酒ですら先生にたかるハメになる」


「なるほど」


 禿頭の男が合成麦酒の瓶を取った。互いに釈をしあって、半分ばかり麦酒の注がれたコップ同士を静かに打ち鳴らす。何に対する乾杯なのかは定かではないが、私と禿頭の男はかすかに笑い合って、それを一息で干した。


「噂だがね」


 禿頭の男が懐から電子タバコを取り出し、咥えた。数秒間にわたり深く息を吸い込んで、同じだけの時間を使って吐く。私はその間、箸を止めて禿頭の男を眺めた。苦い酩酊感にひとしきり浸ったあと、男はつづけた。


「大陸から相当量の違法メモリが流れてきた、という噂と、件のコンピュータウイルスの噂が流れた時期が、絶妙だそうですよ」


「それくらい私も掴んでますよ。したって、別件でしょう。外付けのイリーガルメモリなんてのは大脳にインプラントされたバイオマネジメントチップを騙すのが関の山でしょう。せいぜい、個人の話だ。それを足掛けにして、ネイションズナノネットに介入するというのはレベルが違いますよ」


「そうだね。だから僕は最初から、荒唐無稽だと言っている」


 墓穴を掘ったな、

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