第7話

 戦争犯罪人が数名消されたところで、市井の人々の生活が僅かにも変わることはない。当然のように事件は隠蔽され、犯罪など最初から無かったことにされるだけだ。


 地元の話題に「殺人」の文字は浮かばず、代わりに世間を騒がせているのは夜中に鳴り響いた一発の破裂音だった。


 今日も今日とて昼のニュースは代わり映えのしない内容を流し続けている。


「『市庁舎周辺で銃声のような破裂音が聞こえた』という複数の通報が警察に寄せられて今日で一週間が経ちますが、その原因は未だ判明しておらず――」


 無論、その「銃声のような破裂音」の原因はモーガンが撃ったスナイパーライフルだ。仮に減音器サプレッサーを装着していても、近距離であれば銃声はそれなりに響く。夜更かししていた住人が聞き付けても無理はない。


 とはいえ一週間も経てば真剣に銃声だと信じる頑固者は残っていなかった。どこかのやんちゃ坊主が癇癪玉でも持ち出したのでは、というのが巷で出された結論だ。


「それで、お前はいつまでビクビクしてるつもりなんだ。もう警察なんて来ないさ」


「絶対そうとは言い切れないじゃないですか。現に銃声も聞かれてるわけですし……」


「聞いたのは寝惚けた一般市民だろう。それに死体が見つかったわけでもない。明日にでも捜査は打ち切りになる」


 このところ落ち着かない様子のモーガンを宥める。


 実際、グローリアが関わった犯罪の捜査はすぐに打ち切られるのが既定路線なのだ。レーヴァンが言うには警察上層部や国家の首脳陣にまで協力者を獲得しているらしい。グローリアがいわば「影の軍隊」となり、国軍や公安組織に巨費を投じても満たされない需要を満たすのだと、彼女は誇らしげに語っていた。


 正直、それのどこが誇らしいことなのかサラには全く理解できないのだが。


「それにお店の方は大丈夫なんですか? 銃がどうこうってニュースになったら売り上げが落ちる、みたいなことは」


「この国では逆だ。銃の話題がニュースになれば売り上げは伸びる。そういう国民性なんだろうな」


 モーガンもサラも純粋なチェコ人ではなく、いわゆる移民という存在だ。だからこの国の国民性というものは中々理解に苦しむのだが、しかし銃器の類をごく身近なものと捉えていることは商売柄よく分かっていた。とにかく銃規制が緩いのである。


 もしかするとアメリカよりも緩いのではないかという銃規制のもと、警察官は公の秩序を守るため、一般市民は自己防衛のため拳銃を携行するのが当たり前だった。


 そういう事情が背景にあるのか、ちょっとした事件が報じられる度に店の客足は多少伸びる。今回もご多分に漏れず、ラムダ銃砲店の来店者は少しばかり増えていた。


「そんなことよりモーガン、さっき売った散弾銃ショットガンの登録証はもう書いたのか? あれを警察に出さないといつまでも客に商品を引き渡せないんだが」


「……まだです」


「なら昼休みはもう終わりだ。さっさと仕事に戻るぞ」


 そんな殺生な!と悲痛な声を上げるモーガンを引きずるようにして店舗に戻る。

 正直モーガンの方がよく働いている気がしないでもないが、店長としてやるべき仕事は多くあった。


 まともな収入は多くないだが、それでもそれなりに思い入れはある店なのだ。なにしろこの店こそが、表の社会にサラを繋ぎ留める鎖なのだから。


   §

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