第17話 だけど届かない場所にも思えない
「ここは……そっか。俺、貴船さん
目を覚ますと見慣れた木目調ではなく、白くて広い天井が映り込んだ。カーテンの隙間から差し込む程度なのに、日当たりが良好なのかやたらと眩しい。隣からはぬくもりが伝わり、サラサラした感触は二の腕をこそばゆくさせる。
右の手のひらがメッシュ状の布地に乗ってるけど、これはなんだろう。そっと握ってみれば、柔らかな弾力が返ってきた。
「ん? ふにゃっ?」
「あんっ……////♡」
「ひょえっ!?? ってかはぃいっ!??」
腕と胸部の間に愛華さんの頭があるのは分かってた。だが囲むように伸びた手が、まさか彼女のおっぱいを掴んでいたなんて、想像もしていない。睡眠中もスケベなのかよ俺は。
慌てて手首を返して様子を確認すると、なぜか肌着姿。もちろん俺ではなく、美人奥様だけが。混乱して変な声出るし、その前に揉まれて反応してたのに、安らかに寝息を立てている。昨日は疲れただろうから、ゆっくり寝かせてあげよう。
静かに起き上がろうとしたら、パジャマにしがみつかれて身動きが取れない。なるべく下着を意識しないようにしながら、綺麗な寝顔をもう少し眺めることにした。
「ホント、こんな可愛い奥さんを放置できるご主人の気が知れないや。俺だったら心配で24時間そばに置きたくなる。どうして悲しい顔をさせても、平気でいられるんだろう?」
ボソボソ呟いてると、不意に服を握る力が強くなる。これはもしや昨晩の手口か?
疑念を抱いた俺は、彼女の頬と鼻、更に肩や腕をつっついて不気味な声を発した。
「愛華さぁ〜ん? 何度も同じ手は食いませんよ〜? 諦めて寝たフリはやめましょーねぇ〜?」
「………」
「むっ、強情だなぁ。今度はお腹もつんつんしますよー? なんならおしりも触っちゃいますよー? いいんですかぁ?」
「…………」
「んー、粘るなぁ〜」
呼吸ひとつ乱さない。俺の邪推なのだろうか。いや、ここで油断すれば思うつぼ。警戒心を解くにはまだ早い。
あどけない素顔を見てると、艶っぽい唇に視線が囚われた。もし本当に爆睡中なら、軽いキスくらいならバレないかも。あちこち触れても起きないんだから、むしろバレるはずがない。
間近に寄って覗いてみれば、目元に薄らと残った
幸福感に浸っている頃、眠たげなあくびが聞こえてきた。
「ん〜〜っ。おはよぉ〜蒼葉くん」
「おはようございます。よく眠れました?」
「うん、おかげさまで♪」
「それは何よりです。俺もグッスリでした」
「昨夜の蒼葉くん、すんごくよかったよ〜♡♡」
「……はい? なにが?」
「んー? 逞しくて〜、気持ちよかった♡」
その瞬間、尻で這いずるように布団から後退りした。
ちょっと待て、何を言ってるんだ彼女は? 酒には弱いけど、記憶が飛んだことなんて一度もない。しかし考えてみれば、酔いが覚めた直後に飲み直したこともない。ついでに彼女が下着しか着けてないのも不自然。もしかして俺、無自覚の間に童貞を卒業してしまったのか?
激しい動揺に全身が強張るも、震える指を彼女に向け、目先の謎を問い質した。
「あの、な、なんで愛華さん……その、服を着てないんすかっ!?」
「え? あ〜、リラックスしてると寝てる途中で脱いじゃう癖があるんだよ〜」
「あぁ、なるほど。時々いますねそういう人」
「うん。いつもはブラも外して寝るんだけど、さすがに蒼葉くんの前だと照れるな〜って♡」
「格好については納得しました。目のやり場に困りますので、上着てください」
「ほーい。他にもなんか気になるのー?」
「……さっきの発言はなんすか? 逞しいだの気持ちいいだの」
「そのまんまだよ? 蒼葉くん細いのに腹筋や胸の厚みがちゃんとあって、くっ付いてたら安心感あったし、抱き心地よかったよ〜って話ー♪」
「主語だけ完全に迷子だったわけか……」
解説を受けて無罪が立証された。早とちりもあったけど、俺だけの責任ではないだろう。
愛華さんを直視できなかった俺は、首から上だけをチラチラ見て会話していた。もうキャミは着てるし、ぽけーっと座り込んでるのは着替えを終えたからに違いない。全身を彼女に向けた途端、判断ミスを嘆きながら、両手で目を覆い隠した。最も予想外の展開である。
「なっ、なっ……なんで下だけ履いてないんすか!!」
「え〜、
「子供か! 子供の屁理屈か! その格好のが卑猥でエロいっすよ!!」
「でも座ったまま履くとさ、もっとえっちな体勢にならない〜? 蒼葉くん絶対見るでしょー♡」
「と、とにかく、俺は後ろ向いてるんで、さっさと下着隠して!」
「あはっ♪♪ キミは下の方も正直で元気だねぇ〜♡」
「へ? 今度は何を言って——って、どこ見てんすかぁっ!!」
「んー? 蒼葉くんのおちん——」
「言わんでいいっ!! 露骨に言うなアホぉ!!」
「むぅーーっ。キミがどこ見てるって訊いてきたんだよー?」
「そっ、そうですが……」
なにこの膨れっ面。ちっちゃな口も鋭くなった目も、ただただ可愛いだけなんだけど。頬っぺを指で押してぷすーってやりたい。
ところが本人は割と真面目に怒ってるらしく、目の前まで迫ってきて自身の正当性を主張する。
「あたしは質問に答えただけなのに、どーしてアホって言われなきゃいけないのー?」
「うぐっ。あのぉ、目力強いっすね……?」
「露骨にって、キミならどう言うのさー?」
「お、お顔が可愛くて、それどころでは——」
「遠回しに言う方が、こっちだって恥ずかしいんだよーっ!?」
「分かりきってて尋ねた俺が全面的に悪かったです!! 本っ当に申し訳ございませんでした!!」
「………ぷっ! あっははははっ! キミってやっぱ変!♪ なーんでたじろぎながら褒めてんのぉー?」
「いや、自分でもよく分かんないっす……」
「ごめんね。ちょっと怒ったけど、そんなに気にしてないよ〜♪ お詫びにおっぱいでも揉む?♡」
「とりあえず下を履いてください。パンツ見慣れてきた自分が虚しくなります」
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