第7話 王技発覚

 この路地の両脇には、大量のゴミと、鉄の棒やら

、よくわからん馬の模型なんかも置いてあった。

 汚いし、それに少し臭った。

 これ全部もしかしてジンさんの店から出たゴミなんじゃ…と思いながら、路地をふらふらと歩いていると、右側に少しひらけた広場を見つけた。

 そこに先程泣き叫んでいた少女らしき姿があった。その少女は鉄の手すりにつかまっていて、男二人が引き剥がそうとしていた。

 ここ一帯は居住区だったが、人影も一つも見当たらないし、声など微塵も聞こえなかった。もう誰も住んでいないんだろう。

 叫んだところで助けに来る人は誰一人いないだろう。…ここにいる俺を除いて

「あのー、何してるんですか?」

 俺は恐る恐る聞いてみた。

 なんたって、男二人とも軽装備だが鎧を身につけていて、一人は小さいが体は太く、もう一人は細かったが、槍を持っていた。

「…ここで何してんだ。坊主。」

 その返事に憤りを隠せていなかった。いや、隠す気などなかったのだろう。

「…泣き叫ぶ声が聞こえたので、、、不思議に思い

、見にきました。」

 二人は俺に対する警戒心を解く気は全くなく、終始俺を睨んできた。

「…こいつはなぁ、奴隷市場から逃げたんだよ。それを俺たちが引っとらえにきたって訳だ。わかったら、さっさとあっちへ行け!」

 と睨みをきかせてきた。だからと言って引くわけにはいかない。なぜなら少女は泣きながら歯を食いしばり、手すりを強く握っている。そんな姿を見て、帰るわけにはいかなかった。

「…じゃあ、その少女俺が買いますよ。いくらです?」

俺はおどけたようにいった。

「……金貨千枚だ。それ以外は受け付けねぇ。」

「たったの千枚ですか?なら今すぐ用意してきますので、ここでお待ちください。」

 とは言ってみたものの、家にそれだけの大金があるか俺に分からんし、そもそもそんなにあるのかも怪しかった。

「……ダメだ。今ここで出さなければ、この少女は売らん。」

「なぜです?たったの三十分ですよ。売れるかどうか分からないところに戻すより、今買うといってる人がここにいるんですよ。貴方達、奴隷商人にとっても得じゃありませんか?」

俺は一呼吸置いて、

「それとも何か他にやましいことでも?」

「…分かった。じゃあ早く取ってこい。」

「…申し訳ないけど、どっちか一人僕についてきてくれない?僕が取りに行ってる間にあんた達が逃げる可能性があるからね。」

ガタイのいい男の方が軽く舌打ちをし、

「…分かった。俺がついていく。ただ坊主、嘘だったら承知しねぇぞ?」

と俺を脅したが、別に問題はない。

「分かった。じゃあ行こうか。」

 俺は細い路地に向かい始めた。

 この会話をしている最中にもう頭の靄は無くなっており、浮かび上がってきた文字を読むことができていた。 


 

 細い路地に入ると、男は俺の後頭部目掛けて、大きく腕を振りかぶった。その動きはので、俺は低くしゃがむ。

 男の拳が空を切ったのを確認しながら、近くにあった棒を手に取り、男の左脇腹目掛けて打ち込んだ。

 が、それはなんなく男は空いている左手で防がれた。するとすぐに俺の腹に蹴りを入れてきた。その衝撃で俺は何歩かあとずさりする。

「…やるじゃねぇか。クソガキ。」

「あんたもな。」

 どうしたものか。鎧は今の俺の力じゃ、砕くことはできない。

 だから、鎧を身につけてない顔や脇腹を狙いにいくしかないが、それは相手も承知のはず。きっちりと隙間なく防御するだろう。

 それに相手はこれから基本的に受け身、防御主体になるだろう。あの少女を俺から離れさせるための時間稼ぎができればいいからな。

 無駄に攻めてこないので、そこから崩すのは難しい。となると、

「…王技を使うしかないかぁ。」

 先程俺の脳の中に浮かび上がった文字は、多分だが、俺の王技に関することが書かれていた。

 ぶっつけ本番になってしまうが、仕方あるまい。

「……ふぅ。」

 勝負は一発。息を整え、俺は男に対して一直線に向かう。

 男は少し呆れた表情でこちらをみてきたが、すぐに冷徹な顔に戻った。

 俺と男の距離はもう一メートルまで接近していた。男は大木のような剛腕で先俺から取り上げた鉄の棒を唸るように振るった。

 一発目はやや斜めに振ってきた左腕に対して、右に避けた。すると、棒を折り返し、右にいる俺を目掛けてまた鉄の棒が唸るような速度で降ってきた。

 ここだ。と瞬時に王技を発動させた。

 すると、俺に当たるはずだった鉄の棒は今俺の右手に。…成功したか。

 相手は何が起きたかわからずに呆気にとられている。その瞬間を見逃さずに男の顎を目がけて一直線に振る。

 男は守ることもできずに棒は直撃する。

脳震盪狙いの一撃だったが、意識を失ってはいなかった。

 ただ、顎を押さえながら、その場に座り込んだ。多少血も出ていた。

 この状態だと追ってこないとは思ったが、念のため、太腿を二、三発棒で殴った。すると男はうずくまった格好で顎と太腿を押さえていた。

 これでしばらくは追ってこれない。俺は急いで彼女の元に向かった。


 

 戻ると、もうそこに少女と男の姿はなくなっていた。

 だが、うっすらと足跡がついていた。

 それと、あいつも泣き叫ぶ幼女を抱えて、人混みには行かないはず……。この足跡を追いつつ、足跡がなくなったら、人混みではない方に進んでけば、追いつくだろう。

 考えをまとめ、すぐに走り出した。いつもより足が軽く感じ、速く走れた。



 少し走ると、男の背中が見えた。追いつこうと俺は速度を上げる。

「——待てっ!!」

 男は振り返り、速度をあげる。

 叫ばなければよかったかもと後悔しながら俺もまた一段と速度を上げる。

 男が右に曲がったので俺も右に曲がろうとすると、槍を死角から刺してこようとした。だが、その攻撃は。俺は左に避けつつ前進する。

「なっっっ!!!」

 男は左腕で少女を抱えていて、右手は今槍を持っている。

 この男に今、防ぐ術はないだろう。と顎を目がけて殴る。なんと今回は上手く脳震盪が起こせたらしい。

 相手は気絶したのか、よろよろと倒れた。

 また先の男と同様追いかけられたら嫌なので太腿を二、三発棒で殴った。

 少女を右腕から引き剥がした。どうやら、気を失っているらしい。

 色々思うところはあるが、とりあえず家に連れていくことにした。俺はカノが待つ時計台に向かい

走り出した。






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