3話 剣士 サクラ・ホラーティウス

最近帝国との交渉がうまくいかない。私が女性だからとなめられているのだろうか。


しかし、社長に就任するまでに帝国と交渉していたのは私だ。帝国の連中は税金を投じてまで一般武器の値下げを要求してくるのだ。武器を販売する以上、帝国からの販売許可は必須だ。帝国の犬に成り下がった武器会社がいくつあることか。


このホラーティウス社は帝国軍への武器販売も行っているからそこらの武器会社と比べると、優位であると考えていたが計算が外れたのだろうか。


 「あの馬鹿息子は何かを企んでいるのか。」


皇子…いや、ただのずるがしこい餓鬼の姿を思い出した。あの餓鬼が好き勝手ふるまうせいで帝国との交渉には骨を折ってきた。


しかし今回はあんな餓鬼の問題なのだろうか。なんだかきな臭い。


例えば、武器を流通しやすくすることにより国内で混乱が起こるとする。その間に裏で何か良からぬことが動いていたらそれはおそらく戦争一択だろう。


たかが一人の経営者が首を突っ込む話ではないかもしれない。


いや、ちがう!


22歳にしてホラーティウス社の社長の座を受け継いだ。父親が死ぬ前に親戚がすり寄ってきた。社長の座を継ぐのは弟であっても良かったが、女の私を傀儡にしようと思っていたのだろう。


私が左遷を告げた時のやつらの顔といったら!なんておかしいものだっただろうか。経営に慣れた親戚は失ったが、レオンやサクラをはじめとする私のチームが私を支えてくれた。そして今の私がある。


どんな難題であろうが必ずこのイシュタル・アイーダ・ホラーティウスがにぎりつぶしてやろう。





乾いた青空の下、カンカンと木がぶつかり合う音が響く。目の前で竹刀をふるう女はホラーティウス社が雇う専属騎士、サクラ・ホラーティウスという。サクラは東洋の島国からやってきてうちの養子だ。つまり、私の妹の扱いになる。黒く美しい髪をたなびかせ、可憐な容姿を持ちながら、容赦なく木刀を振り下ろす。


そのとき、カランカランとガラスの音が響く。


よこで見ていた侍女が終了!と言うと私たちは“お辞儀”をする。このお辞儀のやり方はサクラの母国の文化らしい。


「私、母国のことをほとんど覚えていないのに、イシュタル様が母国のことを大切にしてくださるからうれしくて…」


「いつか、一緒にサクラの母国へ行こう。その時にはこの競技の名前もルールも、わかるといいな。」


「はい!約束ですよ!ところでイシュタル様、何か大事な話があるのでしょう。お茶をしながら話しませんか?」


庭に用意されたケーキはサクラが焼いたという。香ばしい風味のチョコレートにチェリーの風味が少し。なかなかにおいしくて顔が緩んだ。


「例の話とは新聞に書いてあった件ですか?」


「ああ、最近皇族の連中が変な動きを見せている。おまけにこちらの情報が少々流出しているようでは武器会社としての信用を落としかねん。すでにレオンには調査を依頼しているが私はうかつに動くことが出来ん。」


「私は時代が変わりつつある、という印象を受けました。時代とともに武器になれる、もしくはさらに別の脅威が庶民の近くにあるということではないでしょうか。伝染病とか。」


「そうだな、おそらく両方だ。皇族のやつらはうちの武器の値段が下り、更には操作も簡単になって一般に出回りやすくなればいい、と思っている。そう簡単に武器が手に入りやすくなったらどうなる?素人が怪物に挑む、あるいは人に向かって武器をつかうだの事故だのうちの評判は下がるのに皇族の連中のしりぬぐいまでしなければならない。」


「…ひどいですね。」


「そこでだ。お前には気になることを自由に調べてほしい。」


「え。いいんですかそんなこと。」


「信用しているからな。しかし、逐一報告はするように。」


「はい、ご期待にこたえられるように頑張ります。」


「ありがとう。それと申し訳ない、せっかくケーキを焼いてくれたのにこんな話を」


「いいえ、イシュタル様の嬉しい顔をみれて私は嬉しかったのですが…もしよければこのあと私が付けたイチゴの果実酒を一緒に飲みませんか…?」


サクラは頬を赤く染めて言った。昼間から酒を飲めない、と私が言うことを想像しながら勇気を出していってくれたのだろうか。なら断る理由などない。


「本当か?せっかくだからいただいて行こう。


腕の良い騎士は軽快な足取りで準備をしに行ってしまった。


わたしのかわいい妹。世界一の剣士。


サクラ・ホラーティウス

ホラーティウス社の専属騎士

イシュタルに砂浜で拾われた

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