2話 専属騎士 レオン・アルベルト

「アイーダ様、ローズヒップティーをお持ちしました。」

「お茶運びはお前の仕事じゃないだろう。」

「しかし、私が侍女から仕事を奪ってきました!」

「そうか」


アイーダ机に並べられた新聞の切り抜きに目を通している。『仮面の騎士、昨夜も惨状』、『わがまま姫に新恋人発覚』、『わがまま姫とレオン・アルベルト 熱愛』などとよくも想像力豊かに描いたものだ。


こんな夜遅くに部屋に通されているが、残念ながらアイーダ様とこのレオン・アルベルトは熱愛関係ではない。レオンはあくまで、ホラーティウス社に雇われた専属騎士だ。仕事は二つある。アイーダ様の護衛とホラーティウス社のプロモーションだ。


アイーダ様とは仕事の関係だが、レオンとアイーダは互いが九歳の時から一緒に過ごしている。アイーダ様に救われたあの日からずっと恩を返すために強さを身につけてきた。


「新聞社のやつらは好き勝手に想像して記事にして、卑しいですねえ。」

「気にするには及ばない。いつかこちらが好きなように利用してやればいいものだ。」


頭の上で美しく結わえられた桃色の編み込みは王冠のようだ。ゆるりとした寝間着を着ているが気品は隠し切れない。ローズヒップティーと同じ色の瞳がこちらを捉える。

「この記事の内容に覚えはあるか?」アイーダが美しく長い人差し指が一枚の新聞の記事を指さした。

「ホラーティウス社、準一般武器販売制限へ…これはアイーダ様が…はっ!もしかして」

「そうだ。これは個人的にレオンと桜にしか話していないが、もちろんあなたを疑っているわけではない。桜もだ。面倒だがどこから情報が漏れたか調べてくれ。他の仕事は私が桜とうちの専属部隊に引き継いでおく。」


「いえ、全て私一人で十分です。」


「十分ではないから言っているのだ。犯人捜しが済んだら褒美をやろう。いいな?」


「何をくれるんですか?」

これくらいの失礼は許されるだろうか。せっかく一番近くにいるのだからもう少し雑に扱ってほしい。


「私が想像した“お前が欲しがっているもの”を送ろう。」


なんていい加減な答えだろうか。しかし目の前にいる可愛い人の可愛さに勝てるはずがない。


「できるだけ早く終わらせます。それまでに私が欲しいもの、考えてくださいね。」


「もちろんだ。」


一番欲しいものなんて決まっている。しかし、それは私が手に入れることが出来るもの、ではない。



レオン・アルベルト

ホラーティウス社専属の騎士

端正な顔立ちと圧倒的な強さを誇る人気者。

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