武器商人の真骨頂

蟹蛍(かにほ)

1話 帝国の武器商人

「結局お前らは並みの仕事も果たさぬではないか。何が親戚だ。屑と血がつながっている覚えはないぞ。」


そう言って会社から親戚を一斉に左遷したところで、このイシュタル・アイーダ・ホラーティウスは孤独になった。


名門ホラーティウス家の人間だからなんだ。幼少期から質の高い教育を受けていたからなんだ。あいつらは名ばかりの汚職まみれの官僚のような奴らだ。地方へ左遷してやった。


あるものは不当に奴隷を雇い、またある者は資金の横領を。そんな奴らばかりだから今まで皇室の言いなりだったのだ。


世間は私を冷酷無慈悲だと言うが、私は人を苦しめてはいけないという良識がある。そしてその良識と毎日戦っているというのに!


左遷した先はホラーティウスが所持する地方の工場と農園、そして隣国に位置する港だ。そこでたくさん働いてもらわなければならない。


今朝の新聞には『社長就任4日、わがまま姫 親戚を一斉解雇』、『わがまま姫権力を独占か』等と書いてある。記者の連中も下品な奴らだ。しかし、私はこれからこのホラーティウス社の経営改革をしなければならないので かまってはいられない。


ホラーティウス社は武器を作る会社だ。武器と言っても一般向けと軍用のものを作っている。毎日怪物が出現するこの世の中では、一般向けの武器を作ることは大きな意味を持つ。


ライセンスを獲得した人間は一般向け武器を使い怪物を殺すことが出来る。彼らは騎士を名乗り強いものは人気になる。だが、実際には年々強くなる怪物の勢いに敗北し、ホラーティウスや他社の専属部隊や帝国軍のお世話になるやつらが多いことが現状だ。


皇室も役立たずだ。帝国一の権力を持っていながら何もしない。いたずらに殺傷力の強い武器を流通させることがどんな運命をもたらすか、その目で見なければわからないようだ。


「アイーダ様、眉間にしわが寄っています。」


後ろで髪の毛を解かしている男に姿勢を直される。


「すまないレオン、姿勢が悪くなっていたな。」


「少しお休みになられませんか?」


「もう少しだけ働かせてくれ。」


ごみ屑を左遷したところで現状は何も変わらない。


ホラーティウスは400年の歴史を持つ武器会社だ。古ければその分、いいことも悪いこともあった。現在の皇室と結託して戦争を仕掛けたこと、数えきれないほどの奴隷を使って実験を繰り返したこと、化学兵器に手を染めたこと。


武器は対怪物用と見せかけて多くは対人用に使われている。武器会社の令嬢として生まれたら、幼いころに掲げた理想なんてすぐになかったことにされてしまう。


今もどこかでうちの武器が人間を殺めている。私は先この一族の代表として先祖のしりぬぐいをしなければならない。






仕事はまだまだ始まったばかり。




イシュタル・アイーダ・ホラーティウス

ホラーティウス社の女社長

わがまま姫、感情無し女傑など様々な異名を持つが


その正体は

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