第8話 春と冬を告げる鳥
200218/4484/7//
・今年の農作業企画
・4484/10//に作付け開始予定
今年の天候は特に異変は無いらしい。
昨年みたいに豊作であると良いと思う。
まだ肌寒い日が多いが、もうすぐ春が来る。
楽しみだ。
200218/4484/12//
・4484/10//に植え付け始める
まだ朝晩は寒いが少しずつ春の気配が見えて来た。
昨年の土づくりが良かったのか地面に沢山の生き物がいた。
掘り返すとザクザク出て来る。
心苦しいがこの作業で命を落とした生き物も多いだろう。
だが、だからこそ良いものが出来る。
彼らに感謝。
もうすぐ鳥がやって来て春の唄を歌うだろう。
200218/4485/22//
作物の生育は順調。
今のところ異常はない。
だが、やたらと地中に生き物がいる。
特に作物に被害はないが、少し土を掘るとかなり出て来る。
彼らにとって今年の気候は良いのだろうか。
朝晩はまだ冷えるが昼は暖かい。
200218/4485/48//
友人の畑にも虫が湧いているらしい。
いつもより多いとのこと。
作物に被害は無いので放置だが、
おかしなことに気が付いた。
普通はこの虫が掘り返されると鳥がやって来る。
だが、今年は全く姿が見えない。
どういう事だろうか。
200218/4485/56//
鳥がいない。
一羽もいない。
なぜだ。
森にも行ってみたが一羽の鳥もいない。
気候は朝晩がやたらと冷える。
昼は暖かいがその気温差がまずい気がする。
作物に霜が降りないよう気をつけなくてはいけない。
200218/4486/39//
村で緊急の集会があった。
どの畑も作物の出来が悪い。
大きくならないのだ。
何かに畏れるように小さく縮こまっている。
科学気象社の見解も曖昧だ。
ちゃんと気象が調整出来ていないのではないかと思う。
宇宙コロニーでそれが出来ないと致命的だ。
どの村でもそんな様子だ。
母星にとってここはある意味重要な台所だ。
みんな怒っている。
せっかく移民してここに骨を埋める気で来た人ばかりだ。
私も怒りが湧く。
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科学気象社から職員が説明に来た。
あーとかうーとかそんな返事ばかりだ。
機材の故障なのかと思ったがそうでもないらしい。
結局訳が分からず詫びだけして帰って行った。
一体どういうつもりなのだろうか。
詫びを入れてこれで誠意を見せたつもりなのだろうか。
200218/4487/49//
鳥が来た。
驚いた。
いつもよりかなり遅い。
だが春の唄だ。
やっと季節が巡るだろう。
嬉しくなって外に出たら友人がやって来た。
彼も嬉しかったのだろう。
にこにこして笑いながら駆け寄って来た。
一安心だ。
今日も曇っているが明日には晴れるだろう。
200218/4487/56//
鳥はあれから来ない。
妙に静かだ。
なぜだ。
雲も取れない。
作物が枯れ始めた。
今年はだめなのだろうか。
一体科学気象社は何をしているのだ。
200218/4488/75//
鳥が来た。
冬の唄を歌いながら。
空一面に鳥が飛びまわり一斉に冬の唄を歌う。
それは轟音でコロニー全てに響き渡っていた。
それが数時間続いただろうか。
体力を無くした鳥からバタバタと地面に落ち、
弱った作物を潰した。
恐ろしい光景だった。
彼方まで全て鳥の死骸しか見えなかった。
みなは科学気象社に押し掛けた。
だがすでに上層部はコロニー外に退避していて、
残っていたのは末端の人間だけだった。
そこで我々は事実を知った。
このコロニーは過去に外宇宙で起きた超新星爆発の影響を受けていたのだ。
計算ではぎりぎりで避けられたはずなのだが、
科学気象社のわずかな計算ミスで爆発の照射が直接当たってしまった。
最初はわずかな影響だと思われていたので
隠ぺいするつもりだったようだ。
だが虫の大発生、植物の不生育、そして鳥の異常行動で
ついにそれが隠せなくなり上層部は逃げた。
信じられない、
我々を何だと思っているのだ。
許せない。
鳥は照射で神経や脳に異常が出たのではないかとの話だった。
科学気象社の話では小さな生き物により大きく影響が出るらしい。
我々は人なので大きいから影響はありませんとの事だが、
信用できるものか。
200219/3259/54//
あの後何もする気が起こらなかった。
鳥の死骸はあまりにも多すぎてほとんどが腐るまま放置された。
コロニー中に臭いが広がりノイローゼになった人が続出し、
悲しむべきことに命を絶つ人が出た。
本当に許せない。
結局科学気象社の上層部は逮捕されたが、
ほとんどが不可抗力として在宅起訴で済んだ。
我々は超新星の照射を受けているので、
このコロニーから出る事は許されなかった。
母星から援助物資が送られるので食べるものには困らないが、
だから良いと言う話ではない。
今では人口は過去の1/10にまであっという間に減った。
自ら命を絶った人もいるが、
やはり照射の影響はあったのだ。
どんどん人が病気で倒れた。
豊かな農業コロニーは今や死のコロニーだ。
多分この汚染されたコロニーは廃棄されるだろう。
私のようにぎりぎり生き残っている人間がすべて消えたら、
どこかの恒星に落とされる。
科学者にとっては私も含めて興味深い観察実験材料だろう。
看護ロボットが私の世話をする。
私はもうほとんど動けない。
窓から見える景色はただの茶色だ。
冬のような寂しい景色だ。
でも本当は冬でも我々はする事は色々ある。
春に向けて準備はしなければいけない。
本当はとても忙しいのだ。
でも今は何も出来ない。
悔しくて仕方がない。
だから私はこの手記を拡散する。
真実を嘘で固めて恐ろしい程の被害すら隠ぺいした事を告発する。
それが誰にどんな影響を与えるかどうでもいい話だ。
その頃には私はいない。
責任なんか取らずに私は消える。
残った人間でせいぜい火消をするがいい。
200219/4433/99//
幻だろうか。
鳥が春の唄を歌った。
聞こえた気がする。
多分。
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三百年前に廃棄されたコロニー内より発見された手記より。
ちなみにコロニーは破棄されずに放置されていた。
なぜ処分されずに残されていたのは不明だが、
多額の処分費用が払えなかったのが原因だと思われる。
軌道を外れたため調査に入った所、独自の生態系を発展させていた。
緑あふれる内部に我々は驚いた。
植物は全て原種に還り、鳥が飛び回っていた。
その生態系を維持するために
コロニーは大掛かりな修復がされることとなった。
そして過去に起きた負の遺産として残される事が決まった。
我々はこの名も知らぬ農夫の悲痛な告発を、
発表し知らしめることは一つの使命と考え公表した。
願わくは今は鳥が鳴き緑の香りが漂う自然あふれる景色が
彼の慰めになる事を祈りたい。
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