第5話  死に至る病

  



ほぅ、イゴル……、イゴル・クユールエさんとおっしゃる。

幻想学者?

ほぅ学者さんかね、

そんな偉い方がわしに話を聞きたいと、

ふふ、なんだか気持ちが良いのう。


何でも聞いて下されよ、

こんな年寄りの話は誰も聞きたがらんからなあ。


ほぅ、病か、

この星に蔓延はびこる病気かね、

そうさのう、この星の生き物しかかからん風土病じゃの。


そう、この星に生まれた者だけがかかる病気じゃ。


他の生き物にはかからん、

わしらみたいないわゆるヒトじゃな、

それと他の星から来たヒトにはかからん。


ただ、ここはその病気のせいか

他の星の人が定住するのは禁止されてるからな、

何十年も住んだらかかるかもしれん。

でもそんな事をわざわざやりたがる者などおらんしなあ。

(笑い声)


うむ、その病はな、かかったら絶対死ぬのじゃ。

いつかは分からぬが絶対に死ぬ。

だから赤ん坊が生まれたらまずするのは弔いじゃ。


めでたい事じゃないかと?

そりゃそうじゃ、めでたい事じゃよ、

じゃが、いずれこの子も病で死ぬ。

その前に弔いを済ませておいて一度死んでるから

その後の命を長くして下さいと言う親心じゃよ。

だがいずれ死ぬがな。

(笑い声)


だからなわしらには争いごとは無いんじゃよ。

そりゃ小さな言い合いぐらいはあるがな、

戦ってもいずれみんな死んで行く。


わしらには時間がないんじゃ。

わしはたまたま長生き出来てこんなじじぃになったがな、

中には若いうちに死んでしまう者も少なくない。


そんな生き物のわしらに小さな争いや

国同士の戦争をしている暇なんぞないんじゃ。

家族がいたりやりたいことが山ほどあるのに、

どうして戦争をやれと言った国のために

大事な命を落とさないかん?

命はたった一つじゃ。

大事に使わなきゃならん。

(長い沈黙)



まあ、そう言うこった、

必ず死に至る病のおかげでわしらは平和に暮らしとる。

他の人から見たら必ず死ぬと言うのは悲劇かもしれんが、

わしはその病のおかげで自分がやりたい事が

すぐ見つけられて分かっていた気がするよ。


子ども?

おお、三人おるよ。

孫も五人おる。


まあ子どもを持っていない人もいるが、

その人はその人でやる事がちゃんとある。

それはそれぞれの生き方だからな。

その人を責める人なんて誰もおらん。

みんな限られた命じゃ、

みんな他にやることが山の様にあるんじゃよ。


その病は治療法もないが、それならそれで受け入れて

生きて行くのがわしらじゃよ。

そう言う生き方を選ぶものがいても良いと

わしは思うよ。





セヴィラティ星 八十二歳の古老との会話より


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