第2話  起源



この世は丸くなく平らなのである。



私は数年前、世界の果てでそれを支える存在と出会った。

その生き物は常に苦痛に顔が歪み、体液を流し続けている。


それは苦痛による汗なのか涙なのか。


海の水はそれによって満たされているため枯れる事は無く

塩を含んでいる。


この星における生命が海から発生したのならば

全てはその存在の苦痛から生まれたものとなる。


世界の果ては切り立った壁であり、

上に向かっているのか下に向かっているのか私には分からなかった。


ただ言えるのはその果てはどちらも雲のようなものが切り立ち、

見通すことは不可能だった。


白い闇のようなところを私はただ歩いた。

そして疲れ果てついに膝をつくとその足元にその存在がいた。


そこは土なのか岩なのか。


膝の先に割れ目があり、かの存在が私を見ていた。


はっきりとしない水蒸気のような、かといって柔らかくもない岩石の様な目だった。


一体何しに来たのだと言わんばかりにその瞳が語り掛ける。

私たちの言葉ではないのだ。

太古の言葉でもない。

しいて言えば彼らだけの言葉。

と言っても今ではそれを使うのは彼だけだろう。


瞳は傍若無人に私の心に入り込み暴れていく。

思わず私は頭を抱えた。


そして唐突に割れ目は閉じた。


それらの行為は私たちが捕まえた小動物を少しばかり乱暴に調べる行為に近かった。


しかし、それも仕方あるまい。


いきなり彼の世界に入り込んだのは私なのだから。


私は割れそうに痛む頭を抱えつつ歩き出した。

その後はあまり記憶がない。


気が付くとここの入り口まで案内してくれたガイドが

横たわっている私を心配そうに覗き込んでいた。


聞くと入り口に入ってほんの数秒で戻って来たらしいが

ひげが一センチほど伸びて服も薄汚れていた。

計算すれば多分一月ほど私は彷徨っていたらしい。


しかし、空腹でなく体力も落ちておらずそのあたりは不可思議である。

その後体調を調べたが全く問題はなかった。


だがその後に時々巨大な目が自分の中に現れるのをしばしば感じた。

突然周りの全てが怒涛のように押し寄せて来るのだ。

多分かの存在と何らかの方法で繋がっていたのだろう。


普通では耐えられないだろう大波に対して無理やり立たされている感じだった。

この世の今起きているすべてが私の中を通り抜けて、

世界の果てに流れている。

私にはそれらを区別して理解することは不可能だった。


ただ、それも数か月の事であった。


ある日突然に解放されたのを感じた。


私は安堵した。

そのまま続けは私も正気が保てなかったかもしれない。


それは何年も前の話だ。

あれから二度とないが、稀にふとそれを思い出す。


遠慮なくかの存在の場所に踏み込んだ私だ。

その罰であっただろうがあのとてつもない雑多がこの宇宙であったのかもと思う。


この世が続く間はあの存在はあの場所で苦しんでいるのだろう。

その中でのわずかな面白みがこの私だったかもしれない。


取るに足らない手のひらの生き物を、

気まぐれでつまんだり手で覆って暗闇に閉じ込めるようなものだ。


近寄った私が悪かったのだ。




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