デイリートーナメント

 朝の9時にAriaアリアというカジノへ行く。

 Ariaは、ラスベガスの中でも高級なカジノの一つだ。内装から高級感が溢れている。ポーカールームでさえも装飾されている。奥のハイステークスルーム高レートの部屋には有名プロや金持ちが集まっている。ポーカー界のタイガーウッズとまで呼ばれるPhil Iveyフィル・アイビー、伝説級のプレイヤーであるPatrik Antoniusパトリック・アントニウスなど。ポーカープレイヤーならだれでも知っているような有名プレイヤー達だ。


 そんなプレイヤー達とは別室で行われる、一般的なキャッシュゲームへウェイティングを入れる。しかし、ここでWSOP世界大会の洗礼を受けた。事前に、WSOP期間中は人が多いと聞いていた。キャッシュゲームに参加するにもかなり待たなくてはならないと、ロサンゼルスで知り合ったNさんが言っていたのだ。

 ウェイティングが多い。朝の9時だ。だが、25人も待っている。皆テーブルに着いたばかりで席が空く気配もない。それから1時間半待った。しかし一向にウェイティングのリストは縮まらない。俺と同じようなプレイヤー達が、ポーカールームの外で大量にウロウロしている。プロであるNさんがラスベガスには行かないと言っていた理由を目の当たりにした。

 段々と待つことにも嫌気が差してきた。そんなとき、デイリートーナメントの告知を見つけた。参加費は400ドル。比較的安めのデイリー毎日開催のトーナメントだ。400ドル程度なら、一日の賭け額としてもちょうど良い。キャッシュゲームのリストから外れて、トーナメントに参加することに決めた。



 ここで、ポーカーのトーナメントについて説明しておこう。ポーカーのトーナメントは、一言で言ってしまえばバトルロワイアル生き残り戦である。

 参加者は全員同じ額のスタック持ち点を受け取る。一定時間毎にブラインド場代が上昇していき、スタックが無くなった人から脱落する。

 賞金は、飛んだ順位をもとに得られる。参加者のうち2割から3割程度が賞金を受け取る。もちろん、順位が上になればなるほど賞金も上がっていく。そして、賞金を貰える順位よりも下のプレイヤーは一銭も得られない。

 一定の人数まで残れなければ、参加費用が丸々無駄になってしまう。それがポーカーのトーナメントだ。



 渡米後、初のトーナメントだ。テーブルにはまだ9人が揃っていない。それでも4人集まった時点でトーナメントが開始された。

 最初にプレイしたハンドはA♣2♣。最初のブラインドは100/200でアンティが200。500へレイズしてBBブラインドだけがコールした。


フロップ:7♠5♡4♦

 600のドンクベットが飛んできて即フォールドした。



 数ハンド後。4♣2♠でBBからチェックし、4人でフロップへ進んだ。


フロップ:J♦4♡2♣

 2ペアがヒットした。かなり良い状況だ。しかし、誰もベットせずにターンへ進んだ。


ターン:5♦

 誰も強いハンドを持っていそうにない。1,100のポットに対して500をベットした。1人だけがコールした。トップペアや微妙なペア、もしくはフラッシュドローが濃厚である。


リバー:3♠

 ほとんど関係のないカードが落ちた。相手が6を持っていなければかなりの確率で勝っているだろう。88などのペアにコールしてもらうために小さ目のベットである1,000を選択した。しかし、相手はフォールド。残念である。



 こんな感じで、序盤はポットを落としたり取ったりしていた。

 2時間経過して、休憩に入る。30分ブラインドのストラクチャーなので、4レベルが経過した。スタックは26,600。開始時のスタックは25,000だったので、ほぼ原点だ。

 休憩後からは、スタックを増やし続ける。2時間後にはスタックが37,500。しかし、ブラインド場代は一周で4,000である。9周もすればスタックが無くなってしまう。ここからはオールインが多発するようになる。


 予想通り、オールインが多発する。テーブルのプレイヤー達は皆必至だ。オールインしなければ生き残れない。

 俺はオールインに負けて、スタックが20,000へと減り、その後AAで勝って40,000まで復活。しかし、また負けて20,000へ減ってしまう。

 そして、最後はAAで負けてしまった。賞金はゼロだ。時刻は17時。6時間弱しかプレイしていないがだ。それでも楽しかった。



 トーナメントは、キャッシュゲームよりも俺の性に合っている。生きるか死ぬか。それだけの勝負だ。いつでも同じような状況を淡々とプレイするだけのキャッシュゲームには飽きていたのだ。

 これで決心がついた。WSOPのメインイベントに参加する。参加費は1万ドル130万円だ。大金である。それでも戦いたい。


 俺は、世界の最高峰であるメインイベントに挑戦するのだ。

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