欲望の輝く街 ラスベガス

 とうとう長いこと過ごしていたロサンゼルスを出発する。

 今日の予定は移動だけだ。まずはレンタカーを借りる。今日からはカジノで知り合ったH君と一緒に行動である。ロサンゼルスからラスベガスまでは車で4時間程度。まっすぐ行っても味気ないので、デスバレーに寄り道することに決めた。


 2人で運転を交代しながらデスバレーを目指す。長距離の運転も2人いれば楽である。1時間ごと運転手を交換する。運転助手として道案内にも単純な道しかないので、昼寝したりして休憩する。おかげでほぼ疲れは溜まらない。

 道中は荒野だ。ロサンゼルスの郊外を出ると途端に車の量が減ってくる。そして東に進むごとに緑が減ってくる。段々と外気温が上がって、窓を開けて走ることも困難だ。アメリカの原風景。低い草木しかない茶色の風景だ。


 12時にロサンゼルスを出発し、デスバレーに到着したのは17時頃だった。入場料金を支払うために、入り口の土産物屋へ寄る。

 車の外に出た途端、熱波が襲ってくる。気温は46℃。夕方なのにこの気温である。注意喚起の看板にも"HEAT KILLS死ぬほどの暑さ!"と恐ろしいことが書いてある。もし昼間に来ていたら、倒れるほどの暑さだっただろう。到着予定時間よりも遅くなってしまったが、結果的に良かったと言える。

 デスバレーはスターウォーズのロケ地でもある。荒廃とした風景。その暑さからか一部は砂漠になっている。こんなにも熱い地域だが、雨期もあるようで谷間が形成されている。今の時期は、水の枯れた川には塩が固まっている。この塩を求めて小動物が現れることもあるそうだ。しかし、今回の見学ではトカゲの姿しか見えなかった。

 流石に暑すぎたので、デスバレーの見学は数か所で終わり。時刻も19時過ぎだ。日も沈み始めている。近くの街でガソリンを補給してラスベガスを目指す。


 ラスベガスまでは3時間の道のり。日が沈み、夜が訪れた中をひた走る。街灯がほとんどないので車のライトだけが頼りだ。時速は100キロを超えている。夜の運転は、H君が不安だと言うので、俺が運転する。



 そして、数時間後。突然、夜空に光が現れる。眩しいほどにライトアップされたビル群。ラスベガスだ。まずは、ホテルにチェックインする。今回の宿泊はホテル・マリオット。ストリップのすぐそこにあり、立地・内装ともに最高なホテルである。その後はレンタカーを返却して、ラスベガスの散策開始だ。


 H君の案内でカジノを見ていく。ポーカールームのあるカジノを中心に巡る。カジノ内は文字通り別世界だ。

 まずはWSOP会場であるParisパリス Casino とBally'sバリーズ Casino へ行く。バリーズはありきたりなカジノ。ロサンゼルと変わりはない。反面、パリスは全く違う。カジノの室内にパリを模した街があるのだ。パリ風の建物、その周りにはスロット台やルーレット、そしてバーが並ぶ。天井は青空を模している。とても室内とは思えない光景である。

 そしてWSOP世界大会の会場を見学する。パリスの会場にはポーカーテーブルが無数に並んでいる。テーブルの数は軽く見た限りでも300以上だ。つまり収容人数は3000人以上である。とんでもない大きさの会場だ。次は、バリーズの会場。ここにはフューチャーテーブルと呼ばれる場所がある。テレビ放送される特別なテーブルだ。主にファイナルテーブルトーナメント最後の1卓で使われるのだ。特別豪華なテーブルというわけではない。それでもフューチャーテーブルは全ポーカープレイヤーの憧れと言っても過言ではないのである。

 その後はベラージオ、シーザースパレス、アリアとポーカールームを中心に巡っていく。どのカジノも内装が豪華で、見るだけでも楽しい。



 ラスベガスのカジノは、ロサンゼルスと雰囲気が全く違う。

 ラスベガスのカジノは広い。広すぎるほどだ。しかし、ポーカールームはそんな大きなカジノの隅っこにある。周りは柵に覆われる姿は、まるで鳥籠だ。客層も違う。カジノ内の明るい雰囲気と違い、ポーカールーム内はピリピリとしている。他のカジノゲームのように娯楽を楽しむのではなく、金を稼ぐことを第一にしている人間が多いのだ。


 そんな風景に俺は嫌気が差した。本当の意味でポーカーを楽しんでいる人は少ないだろう。プロになってしまえばポーカーだってになるのだ。

 ロサンゼルスは良かった。地元の人間が日常の一部として楽しむためにプレイしている。だから雰囲気が明るい。ラスベガスは違う。金のため、ギャンブルのために来ている。特にポーカーでは、稼ぐために来ているプロばかりだ。


 ポーカーをプレイするということ。そして、ポーカーで稼ぐこと。

 そんな在り方に疑問を持った俺にとって、ラスベガスは欲望で輝いているように思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る