閑話 ヨセミテを目指して

 サンディエゴから帰ってからの2週間、毎日カジノへ通っていた。俺は疲れた。休暇が必要だ。


 サンフランシスコ行きのバスに乗る。今回もFlix busで7時間。中々に距離がある。しかし途中のドライブインで休憩もあるので疲れも少ない。

 ドライブインで、セルフのコーラを買って一服する。セルフのドリンクとは、日本のドリンクバーみたいな機械から自分でジュースを入れて買う形式のものだ。ペットボトルよりも値段が安く、半額くらいで買うことが出来る。セルフ式なので少量なら味見も可能だ。


 19時にサンフランシスコへ到着した。今回もドミトリーに泊まる。もう夜なので外でビールを飲んでから眠る。しかし夜中に問題が発生した。突然、寝ているところを起こされる。俺の寝ていたベットが、自分のベットだと主張する奴が来た。最悪だ。お前の荷物なんてなかっただろ、と主張すると店員を呼んできて文句を言ってくる。荷物が置いてなく、シーツも敷いていないベッドはフリーで使えるはずだ。ドミトリーの常識である。しかし、文化の違い、認識の違いは旅していれば当たり前だ。結局、議論するのも面倒くさいのでベットを譲って、他のベットで眠った。


 翌日からは観光。グレイス大聖堂でステンドグラスを見に行く。受付の女性に入館料を払うと、「日本人か?」と聞かれた。「Yes」と首肯を返すと、日本語で話しかけてきた。

「キース・へリングの絵を見に来たの?」彼女は大学で日本語を学んでいるそうだ。流暢な日本語で話しかけてきた。

「キース・へリング?」と聞き返し、自分のTシャツを指さす。ユニクロで買ったキース・へリングのTシャツは俺のお気に入りだ。

「奥にキース・へリングの作品があるの。是非、見に行って」と勧められた。

 教会には新しいステンドグラスが飾られている。アインシュタインを始めとする、近年の偉人がモチーフになっている。小部屋には、受付の女性が言った通り、キース・へリングの作品があった。金色の彫刻。エイズ撲滅を願って作成した作品のようだ。偶然だが、来た甲斐があったと言える。


 のんびり海へ歩いて行く。坂の多い街だ。登りがきつい。市街地とは思えないほどの傾斜がある。でも、登り切れば景色が良い。坂道の市街地と海。そんな風景だ。坂道だらけの道なので、バイクや車の駐車も坂道だ。特にバイクは倒れてしまいそうで心配だ。

 世界一曲がりくねった道路がある。坂道の傾斜がひどく、真っすぐ道路を作れないのだ。ここは観光客も多いし、観光の車も常に沢山走っている。

 その後はフィッシャーマンズワーフへ行く。海沿いへ行くと監獄として名高いアルカトラズ島と、ゴールデンゲートブリッジが見渡せる。サンフランシスコ名物のパンに入ったクラムチャウダーを食べた。


 翌日はサンフランシスコ現代美術館。現代美術を見る。俺は美術が好きだ。特に印象派が好きなのだが、現代美術も好きである。アメリカは歴史の浅い国だ。だから、現代美術を中心とした美術館が数多くある。不思議なもので、歴史が浅いと新しい文化が生まれるらしいのだ。

 思ったよりも、現代美術は面白い。これまで俺は、現代美術なんてよく分からない芸術だと思っていた。東京にある国立近代美術館にはよく行くが、現代美術だけは共感できなかった。しかし、この美術館は違う。作品の見せ方が違う。作品との距離がない。直ぐ近くで作品を鑑賞できる。スペースも広い。作品を最も良く魅せるために配置がなされている。相変わらず、作品の意味は分からない。それでも魅力だけは伝わる。本当の芸術を見た気がする。俺は初めて、現代美術の凄みを実感した。



 翌日からはレンタカーを借りた。目的地はヨセミテ国立公園。アウトドア愛好家の聖地と呼ばれる場所だ。今回サンフランシスコへ来たのは、ヨセミテへ行くためでもある。


 さて、アメリカで初のレンタカーである。俺は、日本での運転に慣れている。仕事で運転する機会も多く、バイク乗りでもあるので多少の自信はある。しかし今回はアメリカ、車線のハンドルである。

 乗って戸惑ったのはウィンカーの位置である。左ハンドルの車に乗るのは初めてだ。アクセルとブレーキの位置は同じ、シフトレバーは反対だがオートマ車なら不便はない。しかし、ウィンカーの位置である。これも逆なのだ。右ハンドルの車なら、右にウィンカー、左にワイパーが配置されている。左ハンドルだとこれが逆。よって、右左折しようとしてウィンカーを動かすと、ワイパーが動いてしまう。これには慣れるのに数時間を要した。

 交通事情も違う。右折はほとんどの道路で常時可能だ。左折は完全に信号に従わなくてはならない。

 法定速度が速い。一般道で40マイル時速64km、フリーウェイでは70マイル時速112km程度が速度制限だ。日本よりも50%程速度が速いので運転には注意が必要だ。その代わり、車線も多い。市街地でも2~3車線が普通で、大きなフリーウェイでは6車線もあったりする。なので、運転に自信がなければ右側の車線をゆっくり走れば問題はない。道側の車線はトラックと遅い車用となっており、制限速度も異なるのだ。

 そんな風にアメリカの運転に戸惑いつつ夕方に到着したのはMercedマーセドという町。「ヨセミテの入り口」と呼ばれる町である。とりあえず運転に疲れたので一晩、モーテル安宿で休憩にした。


 翌朝は7時に出発。ヨセミテ国立公園までは車で3時間の距離だ。トレッキングをしたいので早めに宿を出た。

 しかし、ヨセミテへは入場できなかった。なにやら予約が必要らしい。マジかよ、と唖然とするが、とりあえず車を近くの駐車場に停める。ネットで予約状況を確認すると1週間ほど売り切れてしまっている。仕方がないので一度宿へ帰ることにした。夕方4時以降なら予約なしでも入場できるらしい。

 昼飯を食べてから一眠りして4時過ぎにヨセミテ国立公園へ再到着。入場料の35ドルを支払って車で公園内を巡る。


 アメリカのスケールを実感する光景だ。素直に感動した、としか書くことが出来ない。それくらい圧倒されるような風景の場所なのだ。

 まず大きい。山のサイズが日本とは違うのだ。見上げるほど高い山々がすぐ近くに見える。また、この国立公園では自然をそのまま残しており、人工物は最低限になっている。道路と駐車場が主な建造物だ。だから自然がとても近い。自然と触れあうということは、可能な限り自然の状態を保ってなくてはならないのだと実感した。

 氷河によって削られた谷間を車で走る。一言で谷間と言っても、大きさが違う。幅が数キロもあるのだ。中心には大きな川が流れている。山々に囲まれた地形で、その中でも見所は「ハーフドーム」と「エル・キャピタン」だ。氷河によって大きく削られた山頂が見られる「ハーフドーム」、ロッククライマーの聖地「エル・キャピタン」。そして、これらを一望できるのが「トンネルビュー」と呼ばれるポイントである。車で回りながら景色に感動し、写真を撮って過ごせばもう夕方だ。日も沈み始めたのでまた3時間ほど車を運転して帰る。

 帰り道にマーセドのダイナーでアメリカンな夕食を食べ、就寝。


 翌日にはレンタカーでロサンゼルスまで戻り、俺はまた以前のポーカー生活へ戻ったのだった。


 


※正直に書いてしまうと、俺の文才ではすばらしさを表現することは出来ない。ぜひ、ヨセミテ国立公園へ行って観て欲しい。そうすれば俺と同じように感動することが出来るだろう。

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