学びの時

 レギュラーの中でも強い奴がいる。顔つきは中国系の男性。毎晩、夕方から深夜までプレイしている。俺の見た限りでは、ほぼ毎日勝ち続けているプレイヤーだ。年齢は40~50くらい。スキンヘッドで寡黙な人物。いつも最低限の言葉しか発しない様子からはミステリアスさを感じる。いつも帽子を深くかぶっており、表情もほとんど見ることが出来ない。WSOP世界大会開催中でもロサンゼルスにいるので、もしかしたら地元のプロなのかもしれない。

 ある時、スキンヘッドは7000ドルものスタックを築き上げていた。開始スタック1,000ドルの7倍だ。とんでもない勝ち方だ。

 これを見た時、俺は彼のプレイをことに決めた。学びの時だ。


 スキンヘッドは毎日のように勝っている。ならば、これは運の良し悪しではない。彼のプレイを見た限り、よく分からないプレイはしていない。むしろ、勝つべきところで勝ち、大きな負けは極力避けているように見える。

 彼はバリュー利益の取り方が秀逸だ。相手の弱いハンドに対して最大の利益を得ている。強いハンドで大きくベットする。基本中の基本である。しかし、これは常に大きく稼げるわけではない。相手のハンドが弱すぎればフォールド降りてしまうからだ。

 彼の場合は違う。相手に弱すぎるハンドしかないときには、ベットを控え、チェックして相手のブラフを巧みに誘うのだ。また、相手に強いハンドがあり、彼にはハンドがあるとき、彼はスロープレイをするわなを仕掛ける。強いハンドでワザとチェックして、相手のバリューベットをレイズしてさらに稼ぐのだ。

 総合してみると、彼は相手のハンドを読む力が優れているように思える。相手のハンドによって最適な戦術を瞬時に判断して、多額の利益を得ているのだ。


 まだスキンヘッドの戦略には特徴がある。リンパー弱いプレイヤーを徹底的に攻めるのだ。

 リンプインLimp inとは、プリフロップ最初の2枚でコールして参加する行為をさす。例えば俺のプレイする5/5では、レイズではなく、5ドルをコールして参加することだ。このようなプレイヤーをリンパーと呼ぶ。

 リンパーは基本的に弱いプレイヤーだ。彼らの問題はリンプコールすることによりハンドが弱いことを教えてしまっていることだ。普段からリンプインするプレイヤーは偶にレイズをする。これはプレミア強いハンドの合図だ。そして、彼らがリンプインすれば、弱いハンドの合図となる。つまり、リンパーリンプした人は弱いハンドを持っていることが多い。このようなプレイヤーはフィッシュカモである。

 もし彼らがレイズしたなら、フォールドすればよい。リンプインしてくれば、こちらは強いハンドでレイズをして、彼を孤立させてアイソレートフロップ後に攻めればよい。リンパーに対する戦略は非常に簡単だ。


 しかし、このプロの場合は違う。様々なハンド(少し弱めのハンドでも)でアイソレートレイズして、ブラフを混ぜながらプレッシャーをかけていくのだ。通常このプロのレイズは20ドルである。しかし、一人でもリンパーがいれば、レイズ額は30~35ドルに膨れ上がる。このプロは大きなレイズをする。そして、文字通りアイソレート一対一にしたのち、相手のハンドを読んで、利益を得ていくのだ。

 これは大きな利益となる。このカジノHustler Casinoではリンパーが多い。だから、高頻度でこのプレイを繰り出せば、次々と利益を得られるのだ。

 俺はスキンヘッドを観察して、同じようにプレイすることにした。弱いプレイヤーを見つけ、徹底的に攻めるのだ。


 また、弱いプレイヤーの様子も観察し続けた。彼らのテルを見つけるのだ。テルは比較的楽に見つかった。興味のないハンドを持っている時、彼らは手札を触ったり、他の場所を見たりしている。逆に強いハンドを持っている時には、相手の様子を観察したり、余裕をもって飲み物を飲んでいたりする。これは弱いプレイヤーほど顕著である。このテルを利用して、戦術を組み立てる。前者の場合、弱いハンドでブラフし、強いハンドはスロープレイわなを仕掛けるするのだ。そして、後者の場合はブラフを控え、バリュー過多でベットをしていく。

 これでかなりの利益を上げられるようになったが、俺はまだまだ未熟である。読みが甘く、予想外のことが起こることもある。しかし、、俺はまだまだ強くなることが出来るのだ。


 また、スキンヘッドを観察するうち、彼の弱点も見つけた。彼のアイソレート孤立化レンジには、弱いハンドが多く含まれているのだ。これを利用して、こちらも微妙なハンドで彼のアイソレートにリレイズ3Betを仕掛けて、彼をフォールドさせてしまうのだ。また、彼は相手の様子をよく観察していると予測される。つまり、俺のプレイを客観的に見て、そのイメージを利用してブラフやバリューを打っていくのだ。

 俺のプレイはタイト固いだ。おそらく、彼ならば、俺がレイズをすれば強いハンドがあると考えて、多くのハンドをフォールドするだろう。俺のイメージを利用して彼を搾取するのだ。



 そして、機会は訪れた。俺のポジションはBBビッグブラインドでハンドはQ♣9♣。

 リンパーが一人で、スキンヘッドが35へレイズ。

 ここは作戦通り、リレイズ3Betである。俺の読みが正しければ、彼のアイソレートには弱めのハンドが多く含まれているはずだ。そして、もし強いハンドを持っていたとしても、俺のイメージを考えてフォールドする可能性が高い。

 105へリレイズすると、リンパーはすぐにフォールドした。そしてのアクションである。彼は俺の方を見て、考え込む。俺のこれまでのプレイはタイトである。固く固く、強いハンドのみをプレイし続けていた。だから、このリレイズ3Betは脅威的に見えるはずである。

 1分ほど経ち、彼は残念そうにフォールドをした。おそらく、強いハンドを持っていたのだ。しかし、俺のプレイを予想してフォールドしたのだろう。


 とりあえず、この勝負は俺の勝ちだ。自分がどう見られているのかイメージを利用した戦術が成功したのだ。



 およそ30分後、またスキンヘッドと戦った。

 ポジションはCOボタンの一つ前でハンドにはK♣K♦がある。同卓していたTVプロデューサーがUTG最初のポジションから20のレイズを仕掛けてきた。は上手いプレイヤーだ。ここで俺がリレイズ3Betすると、彼は俺のイメージからフォールドしてしまうだろう。BBビッグブラインドにはスキンヘッドがいる。彼は俺のコールを見て、弱いハンドだと思うだろう。また、プロデューサーはリレイズ3Betされたら、かなりの確率でフォールドすることも知っているはずだ。つまり、スキンヘッドがリレイズ3Betブラフを仕掛けてくる可能性が高い状況なのである。

 俺は勇気を振り絞りコールした。本当はリレイズ3Betしたいところだ。コールしたせいで、フロップにAが落ちたら最悪である。しかし、俺はを信じた。BTNとSB後ろの二人もコールして、スキンヘッドがハンドをした。彼は配られたときに確認してから、もう一度ハンドを確認したのだ。そして、彼はプレイヤーを見渡す。プロデューサーがレイズし、俺を含めた3人がコールしているのを確認してから、彼は150のリレイズ3Betを仕掛けてきたのだ。

 作戦成功だ。プロデューサーはフォールドして、BTNとBB後ろの二人も降りそうな雰囲気を出している。スキンヘッドだけは考え込む俺を睨んでいる。

 俺は考え込んでから、400へリレイズ4Betをした。そして、スキンヘッドを含めた全員がすぐにフォールドをする。


 これで、通常ならリレイズ3Betして、全員がフォールドしていたであろうポットから、多額の利益を得ることが出来たのだ。



 それから1周ほどハンドをプレイすると、スキンヘッドは帰ってしまった。いつもは深夜までプレイしているのだが、今日は早めな帰宅だ。おそらく、自分がエクスプロイト搾取されていることに気が付いたのだろう。良い男である。

 結果的に強いプロをことができ、俺はこの日530ドルの勝ちでプレイを終了した。

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