閑話 Hola, Amigo!
友人が出来た。ホセというメキシコ人である。
きっかけは、宿を探す際の勘違いから始まった。それでも彼は迷惑に思うこともなく、むしろ毎日のように遊びに行くようになった。
彼の生活サイクルは早朝から始まる。朝5時には奥さんの千里さんを職場のスーパーへ送り届けるのだ。それが終わると部屋に帰り、二度寝をしたり、ビールを飲んだり、犬の散歩へ行ったりする。午後3時に千里さんを迎えに行くまでは暇なのである。
必然的に午前中に暇している俺ともよく会うようになる。すると、どこかへドライブへ行こうと言って、ビールを買ってビーチへ行ったり、観光地へ連れて行ってくれたりする。
このホセという男は見返りを求めない。車を運転してくれても金はいらないと言う。むしろ、ビールだったり、昼食だったりを奢ってくれるほどだ。夕方になるとカジノまで車で連れて行ってくれたりもする。親切な男なのだ。
例えばこんなことがあった。
朝の8時頃、扉を叩く音に目が覚めた。どうやら俺の名前が呼ばれているようだ。Good morning, amigo.と言いながら扉を開けると、朝食に行くから
今日は奥さんのチサトさんも休日のようで、3人で出かける。メキシコ系のスーパーで豚皮を揚げたスナックと飲み物を買うと、次は大通りに車を停めた。
メキシコ人が集まっているワゴン車へ向かう。どうやら露店のようだ。そこでタマルという料理を10個程買い込み、部屋に戻って食べる。
タマルはトウモロコシの殻に包まれたメキシコの一般的な料理だ。外見はちまきに似ている。中を開けると、トウモロコシの粉を固めた白い棒状の物体が出てくる。豚肉が包まれたこれに粉チーズとホットソースをかけて食べるのだ。
素朴な味わいだ。トウモロコシといっても特別甘いわけではなく、トルティーヤのように少しだけ甘みがある程度。豚肉の味付けも薄めで、ホットソースをかけないと味気ない。ただ、一つ食べただけでもかなり腹にたまる。2つも食べれば、もう満足である。
その後はビールを買い込み、ピクニックへ。ホセとチトセさんの3人で2時間ほど車で移動する。到着地はエンジェルス国有林。キャンプサイトが乱立している巨大な森林地帯だ。
日曜日だったので、家族連れでバーベキューなんかをしている人々で溢れている。
そんな中をビールを抱えながら3人で歩く。駐車場もないような奥まった所には、クリスタルレイクと呼ばれる小さな湖がある。暑い中、長い距離を歩かなければならない関係で人は少ない。みんな軽いピクニック程度の用意でのんびりと過ごしている。
我々も湖畔でビールを飲んでのんびりとして過ごす。タバコを吸って、会話をして。昼寝をして湖を泳いで。
そんな風にのんびりと休日を過ごした。
しかし、メキシコ人はテキトーでもある。時間を守る、約束を守るといった基本的なことが出来ないのだ。(メキシコ人ではなく、ホセに限った話かもしれない。)
ある日、翌日にセコイアの森へ行こうと誘ってきた。温泉もあって凄い所だと言っている。車で5時間の距離らしい。最初は早朝に出発の予定だったのだが、せっかくだから夜中に出発して朝から温泉に入ろうという話になった。
出発予定は夜中の1時。俺はポーカーを12時に切り上げてホセを訪ねた。しかし、ドアをノックしても反応がない。30分ほど待つと酔っぱらったホセが現れた。
そして、酒を飲み過ぎたから今日は行かないことにしたと言ってきた。なんという男だ。テキトーな野郎である。この日は、詫びの印にホセからもらったビールを飲んでふて寝した。
それでも総合して見れば、ホセという男は良い奴である。親切で見返りを求めない。時間を守れない性格だが、それさえ分かってしまえば問題もない。
いつか日本に行くと言っているので、その時は日本を案内してあげようと思う。ただ、このメキシコ人が約束を守るかは不明である。この男はテキトーで、それが魅力でもあるのだ。
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