Lucky Days

 3日目。今までの負けは700ドル。それでも緊張していた初日に比べると格段に余裕がある。余裕があれば周りがよく見える。

 これまでのゲームで傾向は掴めた。傾向と対策。まるで受験勉強だ。


 ここのカジノでは皆ルース緩くにプレイし過ぎている。ハンドの参加率が高すぎるのだ。だから、弱いハンドでショーダウンまで行ってしまう。つまり勝つためには、タイト固くに相手よりも強いハンドを持ってプレイをすれば、自然とスタックは増えていくはずだ。

 と言っても、短期間では分散の影響で勝ち負けは安定しない。それでも長期的に見れば、平均して勝ち続けることが出来るのだ。


 また、レーキの影響も掴めた。レーキとは、毎ハンドでカジノ側が徴収する手数料のことで、カジノによって違ってくる。俺のプレイするHustler casinoの5/5ではプリフロップに1ドル取られ、フロップが開くとさらに6ドル取られる。その後は1ドルもレーキの追加はない。

 このレーキだと、早い段階でハンドが終了してしまうのは損である。できるだけポットを大きくすれば、それだけレーキは小さくなる。多人数ポットなどの大きなポットを勝たなくてはならないので、強いハンドが必要だ。


 つまり、投機的なハンドでレイズで参加し、強い手が出来れば大きめにベットしていくのが効果的だろう。具体的には、ポケット手札のペア(例えば77)やAのスーテッドマークの揃ったハンド(例えばA♠5♠)、スーテッドマークの揃ったコネクター連続したカード(例えば9♡8♡)なんかが有利に働くはずだ。こういったハンドで強い役を作り、大きなポットを取ることが重要になる。



 3日目は19時にプレイを開始した。俺が座ったのは、全員がストラドルしている狂ったテーブルだ。

 ストラドルとは、例えば5/5のゲームでBBブラインドの左隣のプレイヤーUTGが、最初のハンドを配られる前に10ドル置いてプレイを始めることをいう。つまり、5/5のゲームではなく、レートがほぼ倍になって5/5/10をプレイすることになるのだ。

 もちろん、これは任意である。UTGのプレイヤーがストラドルを選択しなければ通常の5/5のゲームになる。しかし、テーブルの全員がストラドルしていれば、同調圧力で皆ストラドルを始めるのだ。

 俺の場合は、最初ストラドルをしなかったら、他のプレイヤーから「ストラドルは好きじゃないのか? 一緒にやろうぜ!」と言われた。

 ストラドルは期待値的に損な行為だ。ハンドも見ずに10ドルを置いてプレイするなど愚の骨頂。俺はギャンブルよりもポーカーをやりたいのだ。

 しかし、他のプレイヤーが全員やるならば、単純にレートが高くなっただけとなり、特に損はない。俺も次の周回からストラドルすることにした。



 俺のストラドルでK♠K♣が来た。レイズがあったので、更に150ドルへリレイズ3Betすると、2人がコールしてきた。2人とも弱いプレイヤーだ。


フロップ:8♣5♣3♣

 KKのオーバーペアとK♣でフラッシュドローが出来た。ポットは450ドル。300ベットして、A♣なんかに付いてきてもらいたい。すると、後ろのプレイヤーが700のオールイン。もちろん、スナップすぐにコール。

 相手のハンドは9♣9♡で、何も起こらず俺の勝ち。これで約800ドル稼いだ。



 少し経ってから、BBで6♡5♡が来る。俺の隣にはアグレッシブで、ブラフを多用するプレイヤーがいる。SBが30にレイズして、俺はコール。左隣もコールして、3人でフロップへ行く。


フロップ:4♡3♠2♦

 夢のストレートが完成した。レイザーレイズした人が30ベットして、これにコール。後ろのアグレッシブプレイヤーを巻き込みたい。期待通り、後ろもコールしてきた。


ターン:8♡

 これでストレートだけではなく、フラッシュへのドロー(♡のフラッシュ)も付いた。チェックで回ってきたので、80ドルをベットする。するとアグレッシブなプレイヤーが200へレイズをしてきた。絶好のチャンスである。相手にありそうなハンドはオーバーペアとかワンペア+フラッシュドローである。すかさず600までリレイズすると、相手もコールしてきた。


リバー:Q♡

 少し怖いカードだ。このカードで相手に俺のハンドよりも大きなフラッシュが出来た可能性がある。また、ワンペアやツーペアといったハンドはここで大きくベットしてもコールしてこないだろう。相手はかなりアグレッシブにブラフを多用するプレイヤーである。むしろここは、チェックして相手のブラフを誘ったほうが良いに違いない。

 チェックすると、相手がオールイン。予定通り、相手は罠にはまった。コールして、俺の勝ち。やはり相手はブラフしていた。

 これでスタックが3000ドルを超えた。初日の負けを取り戻してなお余りある勝利である。


 その後は大きな戦いも起こらず24時にプレイを終了した。収支は+1755ドル。ようやく初日の負けを取り戻せた。



 そして、翌日。この日は日中、出かけてから仮眠をとっていたため、22時からプレイを始めた。平日は深夜になってしまうとプロが増え、利益率が低くなりやすいので、微妙な時間である。


 酔っ払い達と同じテーブルに着けた。ラッキーだ。通常プロは、プレイ中に酒を飲まない。カジノ内には酒をテーブルまで運んでもらうことも出来るが、プレイ中に酒を飲むのはアマチュアだけである。


 俺の左隣にはそんなフィッシュカモが座っていた。彼は弱いハンドや微妙なハンドでレイズを繰り返し、オールインまで行ってしまうようなプレイヤーだ。

 そのプレイヤーを観察しながら、じっと機会を待つ。


 ようやく来たのはK♣Q♠。レイズしたら酔っ払いが2人コールしてきて、3人ポットになった。


フロップ:K♦9♡6♡

 50のベットをしたら、左隣から200へレイズが返ってきた。このプレイヤーはかなり弱いハンドでもレイズを返してくるので、トップペアしかないが単純にオールイン。相手はコール。


ターン、リバー:T♦J♠

 相手のハンドはT9でこちらの勝ち。これで1000ドル稼いだ。ラッキーだ。



 その後は大きな争いもなく、午前2時半にプレイを終了。この日も1200ドルほどの利益を得た。

 ラッキーが2日続いた。これでかなりのプラス収支である。この時点で宿代と渡航費は稼げている。

 俺の立てた戦略もうまくはまっている。この調子でやっていけそうだ。

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