こんな想いを秘めてたことを

 川崎先生。


 私の大好きな人。


 もう忘れようと思っていたのに、目の前に先生は現れた。まるで、私を恋に連れ戻すかのように。


「まだ残ってたとは思ってなかったよ」

「あははは。ちょっとまだ学園にいたいなーって思って」

「その気持ち分かるよ。俺も卒業式の日は夕方まで残ってたから」

「そうなんですね」


 共通点を見つけるだけで嬉しくなる。


「久成は打ち上げとかには行かないの?」

「あーはい。私、うるさいのが苦手なので」

「卒業式の打ち上げとかめっちゃ盛り上がるからな。今頃ここら近辺のファミレスとかカラオケは騒がしいんだろうな」

「先生こそ打ち上げとか行かないんですか?先生たちの間でも打ち上げとかあるんじゃ?」

「あるある。けど俺は行かないかな」

「何でです?」

「俺もうるさいの苦手だからね」


 私って単純かもしれない。


 さっきまではもう忘れようとしてたのに、今はずっとこの瞬間が続けばいいと思っちゃってる。


 もう恋で胸がいっぱいだ。


「ほら、久成もそろそろ帰りな。早くしないと日が沈んでくるぞ」

「えー、まだいたいなぁ」

「そんなこと言わないで、ほらほら帰りな」


 ここで帰ると全てが終わる。


 それはさっきまでの私が望んでいたこと。このまま先生に「さよなら」と告げればいいだけ。


 それでも私は。


 私は先生にこの想いを告げたいと思ってしまっていた。

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