私は伝えないといけない

 この恋は報われることがない。


 そんなことは分かっている。私が誰よりも一番知っている。だって、私自身の恋だから。


 それでも、それでも私はこの想いを伝えたかった。


 伝えないといけない。


 そう感じてしまった。


 もうさっきまでの私はいなくなった。今いる私は先生に想いを告げたいと感じてしまっている。


「先生っ!」


 勇気をふり絞って出した言葉。


 さぁ、言うんだ私。


 好きという二文字を。


「どうした?」

「そのっ……わ、私っ!」


 言おうとした瞬間、ふと見えた左手の薬指。


 そこには指輪があった。


 銀色で真ん中に光り輝くダイヤがあった。一瞬で結婚指輪だと理解した。


「その指輪……?」

「あっ、そういえば言ってなかったな。俺、結婚したんだ」


 世界が歪むような感覚に陥る。真っ直ぐ立てているのかが分からなくなる。自分が何を考えていたのか理解できなくなる。


 嘘。


 けど、こんなところで泣いちゃダメだ。


 先生を困惑させちゃう。もしかしたら悲しませてしまうかもしれない。


 だから、だから私は笑顔で先生に話した。


「そうなんですね。どんな人なんですか?」

「学園生の頃から付き合っててさ。お互い落ち着いたしプロポーズしたんだ」

「……学園生の頃からなんて素敵ですね」

「そうかな」

「そうですよ。憧れます」

「久成も良い人見つかるよ。俺が保証する」


 先生もう見つかってるよ。


「ん?久成どうした?」

「ううん。なんでもない。私そろそろ行くね」

「おう。気をつけて帰りなよ」

「はい。さようなら」


 ばいばい私の恋。


 楽しかった想い出が頭をよぎり、胸に詰まった恋心が溢れそうになって、泣きそうになる。


 もう泣いてもいいかな。先生にも見られないし、泣かないとおかしくなりそうだし。


「久成!」


 そんな時に先生が私のことを呼んだ。


 私は涙を堪えて振り向いた。


「卒業おめでとう」

「ありがとうございます」


 私は涙を我慢して、笑顔でそう言った。

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