写真を撮った瞬間

 中庭。


 真ん中に大きな桜の木がある。


 春には満開になって、桜の精霊がいるって噂もある。その噂が本当だと思えてしまうくらい古くて大きい。


 春には多くの生徒がいて、緋岩学園の人気スポットとなる。


 けど、桜が咲いてない時は誰もいない。まるで、世界から忘れられてしまったかのように静かになる。


 私は何も咲いていない桜もきれいだと思うんだけどな。なんか趣があるように感じるけど、分かってくれる人は少ないんだよね。


 ここでは文化祭では一緒に写真を撮ったよね。凄い緊張してたのを今でも覚えているよ。


「一緒に撮ってくだちゃい」


 思わず噛んでしまったけど、先生は笑いながら「いいよ」と言ってくれた。


 とても嬉しかったよ。


「何でこんなところなの?」

「嫌だったですか?」

「そういうわけではなくて。もっと文化祭ぽいところとかあったでしょ。教室とか」

「私、人混みが嫌いなので。ここみたいな静かな場所が好きなんです。それに……」

「それに?」

「何もない桜の雰囲気が好きで」

「あぁー。俺もなんとなくだけど分かるよ」


 初めて共感してくれる人がいて嬉しかった。


 ますます先生のことが好きになっていく。それを実感するくらい心臓がドキドキしていた。


 ただ、このドキドキが先生にバレないように祈っていた。だってバレると恥ずかしいからね。


 ねぇ、先生。


 この時の写真は今も家の机に飾ってあるんだよ。


 受験で挫けそうになった時も、気分が乗らない時も、この写真を見て頑張ろうと思ってたんだから。今の私がいるのは先生のおかげだね。

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