出逢った時のこと

 電車で20分。


 今まで行ったことのない初めての街だった。


 人が地元よりも多くて、建物が入り組んでいて、学園まで行けるか不安だった。スマホを見ながら歩いても迷子になる自信があった。


 実際、迷子になった。


 そんな時に助けてくれたのが川崎先生だった。


「大丈夫?」


 その一言は不安な気持ちから私を引き上げてくれた。


「あっ、その……えっと」


 テンパって何も言えなかった私。


 だって仕方ないよ。


 男の人と話すことなんて滅多になかったからね。それも大人の人となんて。お父さん以外では中々いないよ。


「怪しいひとじゃないから。深呼吸して落ち着いて」


 そう言って、私が落ち着くまで待っててくれた。


「あの……実は、迷子になって……」

「どこ行きたいの?」

「緋岩学園です」

「少し待っててね」


 そう言って紙に何かを書いて


「ほらこれ」


 と手書きの地図を渡してくれた。


「不格好な地図だけど許して」


 そう言って川崎先生は微笑んでいた。


 この時はまだ学園の先生って知らないで、心優しい通行人Aだと思っていた。優しく話しかけてくれて、地図まで書いてくれて、とても親切な人だと思っていた。


 今思うと、この時だったかもしれない。


 この人のことを好きになったのは。


 今考えると、私ってけっこうチョロいのかな。


 だって仕方ないよ。見知らぬ人に優しくしてくれる人なんて初めて見たんだから。

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