第17話 満員電車の憂鬱

妄想退職届を心の奥に隠してーーー


 ◇  ◇  ◇


はやく帰って、疲れた体を休めたい。

会社帰り、自宅の最寄り駅へ着いたとき、ちょうど雨が降り始めてきた。

そのタイミングの悪さも、自分を憂鬱にさせた。

しかし、はやく帰りたい気持ちとは裏腹に、帰り道にあるいつもの喫茶店に寄ってしまう。

やはり、自宅で飲む珈琲とプロの淹れてくれる珈琲の味は違う。


 ◇  ◇  ◇


「通勤時間なんて人生の無駄遣いでしかない」

そんな自分は、職場の近くに一軒家を構えることにした。


建ててしまった後に、職場の配置換えで、通勤時間が長くなってしまった。

「5分」が「2時間」となり、苦痛しかない。


通勤電車は、もみくちゃに混雑していて、座れないだけでなく、趣味の読書もできない。

読書できないだけで、人生一つ損している気分にさせる。


 ◇  ◇  ◇


それにしても、同じ電車から見た外の風景なのに、

「通勤」と「旅行」では、なぜ?あんなに見え方が違うのだろう?


旅行での電車では、

住宅街の隙間から見える畑や田んぼ、不意に出没する公園、仲良く歩いている恋人たちが、目に入ってくる。

なんか、ほっと癒やされる。


通勤は、ただただ同じ風景。

当たり前だけど。

そもそも景色を眺める余裕すらない。


一軒家を引き払って、引っ越そうか?

それとも、思い切って、転職してしまおうか?


自分の心の奥底には、いつも「妄想退職届」をしのばせている。


この妄想が具現化したときは、どうなるのだろうか?

自分は有意義な時間を手に入れられるのだろうか?


退職届とともに、新たな生活も妄想している。

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