第10話 海岸から観る夕陽はきれいで切ない
単身赴任となると、[家族と離れてしまい寂しい。。。]という人と、[羽を伸ばすことができて最高!!!]という人の両方がいるだろう。
自分の場合は、その突然の辞令に少し困惑していた。
ちょうどその時、家族というか、夫婦仲がうまくいっているとは言えなかったからだ。
営業職だったので人当たりが良くて、ちょっとお調子者だと言われていた。
同性に限らず異性と接する時も、壁のようなものを感じることがなかった。
女性の友達が多かった自分は、嫁さんから浮気を疑われていた。
だが、家族を大事に思っていた自分には、やましいことはなかった。
ただ仲がいい異性の友達が多かっただけなんだ。
そんな中、次第に嫁さんとの諍いが増えてきた。
そして、自分は家族を大切にしているのに、嫁さんから信頼されていないことに、とても辛さを感じるようになった。
心が荒んできて、だんだんと自暴自棄になっていた。
決めかねていた地方転勤の辞令だが、結局単身赴任することを選んだ。
嫁さんとは、少し距離をおいた方が、関係が修復すると思ったからだ。
転勤先は、大きな地方都市だった。
生活に困ることはなかったが、家族も友人もいない暮らしはさびしかった。
夕飯は食事を兼ねて、いつも近くの居酒屋へ一人で行っていた。
そんなさびしい転勤生活スタートも、すぐに変化は訪れた。
自分の一週間あとに、別の営業所から、一人の女性社員が転勤してきたのだ。
いかにも仕事ができそうな、ちょっとキツめの女性だった。
やりにくそうな予感がしていたが、そんな心配は必要なく、すぐに打ち解けていった。きっと似たような境遇のおかけだろう。
ある日、一緒に夕飯を食べることになったのだが、慣れない土地だったので、いつもの居酒屋へ行くことにした。
その居酒屋で気づいたことがある。彼女はよく笑うんだ。
その笑顔はとても愛嬌があり、かわいらしい女性だった。
お酒を飲みながら、彼女は彼女自身の話をしてくれた。
話を聞いてみると、まだ転勤先には馴染めていないらしい。
あと「実は男性もお酒も苦手なこと」を言っていた。
◇ ◇ ◇
その日以降、
お互い、一人きりなので、毎日、一緒に食事に行くようになっていた。
その頃は、男性苦手なのに、自分といてくれるのは、異性として見られていないだけなんだと思っていた。
そのうち「お酒だけじゃなく、遊びに連れて行って下さい」と言われてしまった。
ついつい惰性で、居酒屋へいつも行っていたが、彼女がお酒が苦手なことを忘れていた。
でも、まだ、その街のことはよく知らなかった。
遊びって・・・、ボーリング?映画?探せばダーツバーなら見つかるかも?!などと考えていたが、やはりどこも思いつかなかった。
結局、いつもの居酒屋で食事をした。
居酒屋を出ると、なんだか少しだけ申し訳ない気持ちになって、近くの桜並木へ散歩にいった。
気づくと夜風が冷たく、そして辺りから人影がなくなっていた。
気まずくなった自分は、いつも居酒屋で食事に付き合わせていることを、謝った。
すると、不意に彼女に見つめられ、
「・・・あと、2時間だけでいいから、あなたと一緒にいさせてください。」
自分は、突然の彼女の言葉に混乱していた。
たくさんのことが頭に浮かんできて、それを必死に整理しようとしていた。
[うん? 話がかみあっていないな? 2時間ってなに?]
何も言葉を返せないでいる自分に、彼女は突然キスをしてきた。
キスはしながらも、頭の中は混乱したままだった。
[一緒にって・・・ホテルへ行けばいいのかな?]
なんと言っていいかわからず、無言でとりあえず手をつないだ。
そのまま、タクシーに乗り込み、ホテルへ向かう。
海岸沿いのホテルの前で、タクシーを降りた。
[ラブホテルって、かならず、高速のICの近くか、海岸の近くにあるよな。どこでも変わらないんだな。]
と、頭の中で変なことに感心していた。
タクシーから降りた彼女は、ホテルではなく海岸へ走っていってしまった。
[えっ?遊びたいって、海で遊びたいの?]
彼女の言葉も行動も、よくわからないままだった。
すぐに戻ってきた彼女と、流されるように、ホテルへ入っていった。
ホテルで【休憩2時間】のボタンを押したとき、
[さっき言ってた2時間って休憩ってことだったの?]
と、また変なことが頭に浮かんできた。
もうホテルに入っているのに、状況に追いつけていない自分がいた。
◇ ◇ ◇
それから、月日は経ち、転勤先の仕事にはすでに慣れていた。
だが、自分の気持ちもよくわからないままだった。
彼女が何を考えているのかもわからないままだった。
わからないまま、あの夜と同じように流されるまま、二人の2時間を過ごしている。
変わったところといえば、彼女とは、
海岸へ夕陽を一緒に観にいくようになっていた
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