第5話 勘違いの憂鬱

昔の記憶を思い出そうとしていた。


[自分が初めて女子を意識したのは、いつのことだろうか?]


それは甘酸っぱくもなく、ただただ苦いだけの話。

人間は嫌なことは、忘れる生き物だというけれど、

珈琲を飲むたびに思い出す。

後悔したことは忘れられないーーー


 ◇  ◇  ◇


中学生のときに通っていた学習塾に、ちょっと目立つ美人の子がいた。

ある日、突然、その子からクッキーを貰った。


クッキーを貰ったのが、自分だけなのか、それとも皆なのかはわからなかった。

自分は「お返しをしなければ」という使命感に襲われた。


クッキーのお返しに選んだのはコーヒーだった。

ラッピングもしてもらって。


塾で、その子にお返しを渡したときは、塾全体が変な空気になった。

「クッキーのお返し」と言わなかったために、ただ、プレゼントを渡してる。って感じになってしまった。


その子は美人だったけど、好きでもなんでもなかった。

ただ、自分はお返しをしたかっただけなんだけど。


変な空気を元に戻す話術もなかった。

ただただ、そのままになってしまった。


それ以上のオチもなにもない話、

でも、なぜか、忘れられずに覚えている。


あの変な空気は一生忘れられない気がする

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