最終話 青春の味

 どうしよう。何が起こったんだろう。福士くんが私の事を気にしていたなんて。

 連絡先まで貰った。嬉しい、けれども同じ位悩みにもなる。純子だ。こんな事、一人では抱えきれない。私はいずみに相談する事にした。


 泉は隣のクラスで、顔が広くて恋愛経験も豊富な頼りになる存在。私はすぐに泉に連絡をして、駅前で会う約束をした。


 私は福士くんへの想いだけは隠して、事の成り行きを説明した。


「福士典明ね、あいつ良くない噂があるよ」


 私の話を聞いてまず、泉の台詞せりふがそれだった。どうやら福士くんは他校の女子と合コンをしているらしい、純子とつきあってからも。


「純子とつきあってるから黙ってたけど由梨亜にまでちょっかい出してるならもう黙ってられないね」


 泉は少し怒っていた。私もだ。許せない……あんなに悩んで苦しんで忘れようとしていたのに。


「純子に話そう」


 こうなったらもう、打ち明けたほうがいい。泉もそれに賛同して、今から純子の家に行く事になった。



 純子は思ったよりも元気だった。それに安心した私と泉は福士くんの事を話した。純子は驚くかと思ったら、そうでもなかった。


「こないだデート中に知らない女が声かけてきてね。一応平気なふりしてたけど……典明、メールもよく来るし電話する時も私が聞こえない位置まで離れるしおかしいなって思ってたんだ。色々考えていたら知恵熱みたいなの出て、典明に会いたくないって思って学校休んだ」


 純子が泣いている。それを見て同情なのか、一種の優越感のような気持ちが芽生えた。駄目だ、優越感なんて駄目。


 ……あれ、なんで私がもやもやしているんだろう。

 純子は泣いている、泉は怒っている、私はもやもやしている。どうして私たちがこんな感情を抱えなきゃいけないのだろう。元凶は、あの男ではないか。むかむかしてきた。


 泣くのももやもやするのも違う。怒る、きっとこれが正解だ。 


「私も腹立ってきた、あの男に天誅てんちゅうくだそう」


 私の発言に泉と純子は少し驚き、すぐに賛同した。

 計画を決める。私が福士くんにメールを送り福士くんを呼び出す。呼び出した場所には私と純子がいる算段だ。



 次の日、早速実行に移した。場所はパソコン室。

 私が一人だと思い、福士くんはヘラヘラ笑って近寄ってきた。すかさず教卓に隠れていた純子が姿を現す。驚いた福士くんに私と純子が詰め寄る。

 

 福士くんは思ったよりも弱気だった。ごめん、と連呼していたが誰に対して何を謝っているのか分からない。


「そうやって弱いふりをすれば許されると思ってた? 女子のネットワークなめるなよ」


 廊下に隠れていた泉も応戦する。女子三人の怒りを受けた福士くんは、へびにらまれたかえるだった。


「すいませんでした」


 福士くんは最後には頭をうなだれて正座をして謝っていた。

 純子は福士くんに別れを告げて「もう行こう」と言い、私たち三人はパソコン室を後にした。パソコン室には一人、正座をしたままの福士くんだけがいた。



 泉は顔が広いので、この噂はすぐに広まるだろう。福士くんはしばらくおとなしくせざるをないはず。純子は傷が癒えるのに時間がかかると思う。


 純子の傷が癒えた頃、私は本当の事を打ち明けられるのか。それともその必要はないのか。


 私が純子だったらどう思うだろう。こんな結末になって、まさか友達も同じ人が好きだったなんてきっとショックだ。なら打ち明けないでおこう。

 誰にも言えない気持ち。きっとこれも、時間が経てば青春の味になるはず。

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青春の味 青山えむ @seenaemu

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