7.キャンプ場

八雲町のキャンプ場は日本海側の熊石町くまいしちょうに抜ける峠道の途中の脇道にある、おぼこ山荘という温泉の傍らにあった。


入場料や駐車料金のない、水汲み場があるだけの簡素なキャンプ場だ。


テントを立ててレトルトカレーを温めるだけの僕らにはこのくらいがちょうどいい。


「とりあえず疲れたな。温泉行こうよ。」

今日1日ずっと運転してきた岩清水が提案する。


誰一人として異論はない。


多少テント張る時間が遅くなるとしても温泉に入りたい。



温泉の入湯料は大人600円だった。


山間の本格温泉にしては格安だ。


内風呂から露天風呂までは長い長い階段を下っていく。


川のせせらぎが聞こえてくるということは、川べりに露天風呂があるということなのだろう。


あいにくすっかり夜なので周囲の風景はわからない。


ただ、見上げると満天の星空が僕らをまぁるく包み込んでいた。


山間なので小さい星までよく見える。


僕らは星空に包まれて湯に浸かるという行為に満足した。


しかしあまりゆっくりも出来ない。


湯から上がったらテントを建てなければならないからだ。


僕らは早々に湯を出て、隣のキャンプ場に戻った。



テントは大して大きいテントではない。


簡単なテントなので10分もあれば十分に設営出来た。


そのあとテーブルも組み立てれば夕食の準備に入れる。


夕食の準備と言ってもカセットコンロで湯を沸かして、レトルトカレーを温めるだけだ。


ご飯はもちろん炊いてる時間など無いのでお惣菜コーナーのご飯を買ってきた。


僕らはカレーをご飯に掛けると缶ビールも開栓した。


「かんぱーい!」

缶ビールを突き合わせる。


「明日は帰るだけでしょ?」

三浦が訊く。


「いや、折角だからとりあえずくじも引くだけ引いてみようよ。」 

僕が答える。


「えっ?まだやるの?」


「帰り道の市町村が出るかもしれないじゃん。」


「そうだな、帰り道出たら寄れるしな。」

岩清水も賛同する。


「帰り道じゃなかったら?」


「それは行かないよ、さすがに。」


「そうと決まったら早速くじ引こうぜ。」

今日くじを引かずに運転だけしてきた岩清水は早速くじを引きたいようだ。


「オッケー、帰り道を頼むぜ。」

僕はくじのケースを車から持ってきた。



「♪何が出るかな何が出るかな チャララ ラ ラ ララララン」

近隣のキャンパーの迷惑にならないよう控えめに唄う。


「よし、これだ!」

岩清水がくじを1枚引いた。


「ん?何だこの黄色い坊やは?」

そのカントリーサインには顔が縦に長くて黄色い顔のキャラクターが描かれていた。


「これは・・・芋かな?」


「わかんないな、下開いてみて。」


厚沢部町あっさぶちょう。」

岩清水が読み上げる。


「厚沢部町って・・・隣じゃん!」


「隣!!?」


「すごいな、よく隣なんて引いたな。」


「これは明日行けるな!」


「もちろんだ!」

僕と三浦はそれぞれに岩清水のくじ運を称え、テントで眠りについた。

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