3.2回めの抽選

カントリーサインというものは市町村の境界線上にあるものであって、市街地にあるものではない。


市街地というものは普通市町村のキワではなく少し中心に寄った位置にあるものだ。


朝日町あさひまちには愛別町あいべつちょうからの峠越えで入ってきたので、当然ながら市街地まで少し走ることになる。

 

昼食場所のあてはないが、とりあえず市街地に向かえば何かあるだろう。

 

 

「オレは朝日町来た事があるよ。」

僕は大学時代にちょっとした用事で来て1泊したことがあった。

 

「ふーん、で、食堂とかあるの?」

三浦が訊く。

 

「いや、それはわかんないけどスズメバチがやたらと飛んでる町だよ。」

 

「危ないよ!そんな情報要らないよ!」

岩清水がすかさず突っ込む。

 

「スズメバチは食えないもんな。」

 


市街地に向かう途中に岩尾内湖いわおないこという湖があった。

 

折角朝日町まで来たので観光のつもりで停車して降りてみる。

 

「全然水が無いじゃないか。」

 

「干上がったダム湖を観たって全然楽しくないよ!」

辛辣ではあるがもっともな意見をそれぞれに口にする。

 

「ところでどうする?この街のキャンプ場はこの湖の畔にあるようだけどここでキャンプする?」

僕は訊いてみた。

 

「この干上がったダム湖のほとりで?」

 

「スズメバチも居るんだろ?」

岩清水が心配事を口にする。

 

「スズメバチが居るかどうかはわからないけど、まだ昼だしチェンジも可能だよね。」

 

「よし、もう1回くじ引いてみるか!」

 


僕は抽選用のくじを入れた陶器の容れ物を車から持ってきた。

 

容れ物は何でも良かったのだが、家には丁度良いものが見当たらなかったので100円ショップで適当に見繕ったものだ。

 

「じゃあ引くよ。」

前回は三浦がくじを引いたので、今回は僕が引くことにした。

 

 

「♪何が出るかな何が出るかな チャララ ラ ラ ララララン」

僕らが始めたこの旅のきっかけとしている水曜どうでしょうの企画でも口ずさまれている唄である。

 

「よし、これにしよう。何の絵かな?」

 

そこには1頭の牛と牧場の風景が描かれていた。

 

「ん??何処だっけな、これは・・・」

 

「牛でしょ?道東の方じゃないの?」

三浦の推測はもっともだ。

 

「うーん、別海べつかいはこんなんじゃなかった気がするしなぁ。」

 

「何か遠そうな気がするね。」

岩清水は何かを感じ取ったらしい。

 

「何か南の方で見たような気がするんだよなぁ。じゃあ、開くよ。」

僕は下半分に折りたたまれた市町村名を開いた。

 

 

八雲町やくもちょう

 

「あ・・・、遠い。」

僕はすぐに距離感を把握した。

 

「え?八雲町ってどこ?」

 

「八雲ってどこだっけ?」

二人はピンときていないようだ。

 

「函館のちょっと上だよ。」

僕は二人に宣告する。

 

「遠いな!馬鹿野郎!」

岩清水はくじを引いた僕を責める。

 

「いや、いいよ。じゃあここでキャンプしようよ。」

三浦は朝日町に留まる意思を表明する。

 

「どうする?引いたんだから行くな?岩清水!」

 

「当たり前だ!引いたんだから行くぞ!」

 

「えー!ここでいいじゃん!」


 

多数決で八雲町行きが決定した。

 

こうして僕らの夏キャンプはカントリーサインの旅へと変貌した。

 

そして同時に永い永い旅の始まりを告げた。

 

軽い気持ちで決した決断であったが、まさに運命の多数決であった。

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