2.朝日町へ

僕と三浦の家がある江別市から朝日町あさひちょうに向かうには、まずは北に走って旭川市に入る必要がある。


旭川市に向かうルートは大きく言って3通りある。


まずは国道12号線を通るルート。


一般道では最短ルートと言えるが大きめの街をいくつも通過し、信号が多い。


次に国道275号線を通るルート。


こちらは大きな街は無いが、少し遠回りになる。


最後に道央自動車道を走り抜けるルートだ。


当然これが一番早いが、通行料がかかる。


あまりお金も掛けたくないし、別に急いでいるわけでもないので今は高速道に乗る気はない。


僕らはスタンダードに国道12号線を北上することにした。


岩清水が実家のワゴン車を借りてきたので運転するのは岩清水だ。

 


「ところで石清水、お前その頭はどうしたんだ?」

僕はさっきから気になっていたことを口にした。


岩清水は何故だか頭をさっぱりきれいに丸めていた。


何か仕事で失敗でもしたのだろうか?


しかし取り立ててそういう感じにも見えない。


「これか?気分転換だ。」

こういう時の岩清水の返答は大抵要領を得ない。


いつも肩透かしの返答をしてくる。


「高校時代の友達の家の風呂で丸めてさ、風呂場を髪の毛だらけにしてやったよ。」

気分転換に自宅の風呂場を髪の毛だらけにされたその友人が可愛そうである。


だいたい社会人がそんな気まぐれに頭を丸めても良いものなのだろうか。


だけどもよくよく見ると、案外に似合っているような気はしてきた。



江別を抜けると岩見沢の街に入る。


岩清水の実家がある街だ。


浴室を髪の毛まみれにされた気の毒な友人の家もおそらくこの街にあるだろう。


岩見沢を抜けると直線道路に入る。


この直線道路は日本一長い直線道路だ。


29.2kmずっと真っ直ぐ走る。


その直線の間で美唄びばい奈井江ないえ砂川すながわの3つの市街地を走り抜ける。


信号が多いので特に爽快感は無いと言っていい。



岩清水はずっと上機嫌に喋っている。


友人同士の長距離ドライブは楽しいものだ。


3ヶ月前のゴールデンウィークには彼と二人で函館までドライブしてきたが、それはそれは楽しかった。


一方の三浦は後ろの座席で退屈そうに携帯電話をいじっている。


元々口数が多い人間ではない。


かと言って機嫌が悪いわけでもなく、彼は彼なりにこの時を楽しんでいるようには見える。



直線道路を抜けると滝川たきかわの街に入る。


滝川駅にはかろうじて札幌駅からの直通普通電車がある。


だから広い意味で言って、ここまでは札幌圏であると言えるかもしれない。


しかしここから先となると電車を乗り換えるか特急に乗らないと行けない。


ここから先は旭川圏なのだと思う。


滝川を抜けると深川の市域を通過するが、旭川まで街はない。


深川までは石狩平野を北上してきたのでほとんど平らだ。


旭川の手前の神居古潭かむいこたんが近づいてくると、両側から山肌が迫ってくる。


神居古潭かむいこたんは山と山の隙間を石狩川が切り抜けていく狭窄地だ。


よくぞこんな隙間を見つけて石狩平野に流れ出たものだと感心する。


この地峡がなかったら、旭川はきっと旭川湖になっていたのだろう。

 


神居古潭かむいこたんを抜けると旭川の街に入る。


北海道第二の都市だ。


もろに街中を通過すると相当に時間がかかる。


街はある程度大きくなると、外周にバイパスが出来る。


旭川もご多分に漏れず流れの良いバイパスがある。


おかげでさほど信号に捕まることもなく旭川を通過することが出来た。


旭川のバイパスを抜けると国道39号線に入った。


この道は遥か東の網走あばしりまで延びている。


旭川の次は当麻とうま町だが、市街地は通らない。


その次の愛別あいべつ町の市街地で国道を離れ、北に折れる。


そこから山間の道道どうどう(※北海道道。県道の類である)を北に走っていく。


道が峠道の様相を帯び、登り切った頃合いに目的の標識が見えてきた。


 

「おぉ、あったあった。さっき引いたカントリーサインだ。」


「3時間くらいだったな。」

岩清水はまだまだ走れそうな様子だ。


「やっと着いたか。」

三浦は少し疲れた様子だ。


「でも思ったより早く着いたな。」

僕は4時間位かかるだろうと踏んでいた。


まだお昼時である。


「とりあえず飯にしようや。」

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