第1回旅

1.出発

2005年8月14日


かくしてその時はやってきた。

 

本日我々はキャンプに行く。

 

僕たちはまだこれが長い長い旅の始まりになるとは気づいていない。

 

ただ気楽にキャンプの準備をしてきた。

 


キャンプ自体も初心者である。

 

友達同士で行ったことはない。

 

子供の頃に親と行ったことや、高校時代に部活動の一環でキャンプしたことならある。

 

しかし友達同士では初めてであるので、高揚感を持って集合場所に向かった。

 

 

一つだけ、一見するとキャンプと無関係なものを準備してきた。

 

カントリーサインのくじである。

 

北海道の市町村の境界にはカントリーサインというものが立っている。

 

その市町村の特色となっているものやキャラクターなどを図案とし、その下に市町村名が記されている標識である。

 

例えば、江別えべつ市であれば上部に煉瓦工場と百年記念塔の図案が描かれ、下部に江別市と書かれている。

 

その看板を越えれば、そこはもう江別市であるという趣向である。

 

 

そのカントリーサインが、212枚ある。

 

奥尻町おくしりちょう礼文町れぶんちょうなどの離島もちゃんとある。

 

市町村というのは合併して無くなることもある。

 

実際のところ、ここのところの平成の大合併により、212あった北海道の市町村は198まで減っている。

 

この先も随所で合併協議が行われており、まだまだ減ると聞いている。

 

最終的に何市町村になるのか知る由もない。

 


だが、僕らにとっての北海道の市町村の数といえば212である。

 

僕らにとって馴染みの深い札幌テレビのワイドショー、どさんこワイドにも212とついている。

 

いや、本当は「どさんこワイド198」に改名されているのだが、やはり馴染み深いのは「どさんこワイド212」なのである。

 

だから今回のくじも212枚作ってきた。

 

というより、カントリーサインの公式ホームページにあったカントリーサインの一覧を印刷すると212枚あった。

 

A4で2枚。それを212枚に切り刻む。

 

その程度の小さな小さなくじを作ってきた。

 

キャンプの行き先を決めるために。



集合場所は三浦の家にした。

 

三浦の家は僕の家のすぐ近くである。

 

三浦とは小学校から大学までずっと一緒だった。

 

ただ、同じクラスになったことは無かった。

 

だから高校まではあまり話したことが無かったが、大学に進んだときに学科内で唯一知っている顔だったので一緒に通学するようになった。

 

三浦との付き合いはほぼ大学からだが、小学校の校区が一緒なので家が近いのは必然だと言える。

 

 

三浦の家に着くと、もう岩清水も来ていた。

 

ダイジュは他の用事と重なってしまったため来ていない。

 

「よっしゃ、何処にキャンプしに行くか決めよーぜー!」

岩清水はもう出発したくて仕方がないらしい。

 

「うん、くじ作って来たよ。」

 

「じゃあ三浦が引いてよ、ここ三浦んちだし。」

 

「えっ、オレが引くの?」

 


岩清水の理屈はあまり意味が判らないが三浦がくじを引くことになった。

 

まぁ、誰が引いても一緒なのだから別に誰でも良い。

 

釧路とかあんまり遠いところに行きたくは無いが、万が一ここ江別を引いてもつまらない。

 

あるいは利尻とかの離島を引いたら困る。

 

それと根本的な事だが、キャンプ場が存在しない市町村を引いても困る。

 

そんな時はとりあえずその市町村に行ってから、もう一回引けばいい。

 

あまり深く考えずにまずは引いてもらおう。



「♪何が出るかな何が出るかな チャララ ラ ラ ララララン」

 

お昼の番組「ごきげんよう」のサイコロのテーマに乗せて三浦がくじを引く。

 

はたして、引いたくじにはスキージャンプをするナキウサギの絵が描かれていた。

 

くじの下半分、市町村名が書かれている部分は折り畳んで最初は見えないようにしてある。

 

僕はこういう仕事には細かい性分だ。

 

そしてこの絵に僕は見覚えがあった。

 


「これは少し遠いんじゃないかな?オレは行ったことある場所だと思うんだけど。」

 

「え?どこ?」

 

「見たことないね。」

三浦も岩清水もピンと来ていない様子だ。

 

僕は三浦からくじを受け取り、くじの下半分を開いた。

 

「あ、やっぱり朝日町あさひちょうだ。」

 

「どこそれ?」

 

「聞いたことないなぁ。」

確かに知名度が高い市町村とは言い難い。

 

大体が北海道には212も市町村があるのだから、知らない市町村が沢山あっても不思議ではない。

 

「まぁ、旭川よりもちょっと北の方だよ。」

 

「ふーん。」

三浦はあまり興味が無さそうな感じである。

 

「オッケー、じゃあそこ行こうぜ!」

岩清水はとりあえず出発したくて仕方がないようだ。

 

「じゃあ、出発だ!」

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