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 ピックアップトラックは地面のギャップを踏むたびにびっくりしてガタガタ横に揺れている。車体の方もそうとう無理をして使っていることがわかった。

 山道を登っているときは黒煙が立ち込めるし、下りともなればキーキーとブレーキがけたたましく鳴りながら、もし止まることができなかったら谷底まで落ちてしまう、という恐怖にかられてしまう。

 加賀組の拠点を出てから半日。周囲は高い山と深い崖と、ときおり現れる緑に飲み込まれた集落ばかりだった。今にも壊れそうなピックアップトラックやバンを除けば自然がいっぱいの平和なドライブだった。明日の夜に到着予定なので、もうしばらくは心穏やかにかつての日本の風景に思いを馳せることができた。

「こんなに沢山の人が来てくれて、ちょっとびっくりです」

 5台のピックアップトラックやバンに分乗し、重武装の自警団がアイカたちを護衛する形でついてきてくれた。

 荷台には保存食や医薬品と大量の弾薬があった。使い古しの薬莢だが仲間たちが協力して磨いてくれたものだ。ペレスのDShK機関砲も山道で揺れるたびに重そうな音を立てている。

「あっははは! そりゃおめぇ、奇械マシンどもとの最後の大喧嘩、みんな行きてぇにきまってるだろうが」

 運転席でハンドルを握るトシイエは相変わらず豪胆だった。

「でもすっごく危険です」

「危険だがやらなきゃ手に入るものも入らねぇ、だろ。ほら、なんつーたか、“■■穴に手を入れなきゃイケない”だったか。戦前の軍事施設だぜ。お宝が眠ってるに違いねぇ」

 トシイエが前を向いたまま首を傾げた。

「ちょっと、アイカに変なことを言わないでよね」ケイコが鋭くたしなめた。「トラの穴でしょ。何よ■■の穴って」

「あーはっは。そうだったそうだった。トラが何なのかよーわからんが、たしかにそうだ」

 学校の図鑑で読んだことがある。虎は人も食べてしまうような危険な動物だ。

 そしてもうひとり、トシイエの隣から危険なほど鋭い眼光を感じた。助手席に座っているペレスさんは、後席のふたりをじろりと見ている。わたしやケイコさんがトシイエに話しかけるたびに視線に射殺されそうにんる。そもそも車酔いしないのだろうか。

「ペレス、まい すうぃーてぃー。どんと うぉーりーだぜ。俺のらぶ は おんりーゆーだからよ」

 トシイエの英語かどうかも怪しい愛の囁きでペレスはすっかり機嫌を直した。そしてふたりは熱いキスを交わした。たぶん、ペレスさんはわたしたちの言葉がわかってる。

「ちょっと、前を見て運転しなさいよ! ここ山道なのよ」

 ばしばし、とケイコは運転席の背もたれを蹴飛ばした。

 うーん、このままだと三つ巴で争いが生まれそう。とりあえず適当な話題を。

「トシイエさんって英語が話せるんですね、すごい」

「ん、ああちゃんと学校で勉強してたからよ」

「学校で勉強するんですか。英語を?」

「ああ。加賀組の集落には学校がある。戦前と……同じかどうかは知らんが、先生もいるし、読み書きも習う。英語もまあ、多少な。ほとんど忘れちまったが。アイカのお嬢も賢そうだ。英語くらい話せるんだろ」

「プログラミング言語としてなら、一応わかりますが話せません。普通に習うのは共通語エスペラントだけですから」

唯一都市ザ・シティの連中が話している言葉、だろ」

「といっても財閥さんや統制局の役人だけですけどね」

「じゃあ、あれかい? 共通語エスペラントってのがあれば世界中の人たちと話せるんだろ」

 なぜ世界、なのだろうか。そもそもあの2度の戦火を生き残った世界の人がどれだけいるのだろうか。

共通語エスペラントがわかれば比較的いい地位につくことができるので、わたしたちも難民の人たちも勉強する人がいます」

「4度目の戦争のきっかけ。爺さま連中の噂話だからどこまで本当かはわからないが、3度目の戦争の核でみんなボロボロだってーのに、単純な言葉の行き違いのせいで4度目の戦争が起きちまった」

「ふむふむ、なら、それだけの対価を払っても欲しかった何か・・、があったと」

「アイカのお嬢は賢いねぇ。先生みたいだ」

「エヘヘッ、そうですか」

「ま、過去の大戦で何があったかなんてだーれもわかりゃしねぇ。死人に口なし、っていうんだろ」

 トシイエは割れたバックミラーでケイコを見た。

「ええ、私も、過去はどうでもいいわ。平和になってくれたらね」

「ウシシッ、そーだろそーだろ」

 奇械マシンがいなくなって、戦前の街が修復され、そしてご飯をいっぱい食べられる。そしてその隣はケイコさんと一緒だ。いい世界だ。

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