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梅園寺基地の正門の間から朝日が登って来ている。あまり眠れなかったにもかかわらず目は冴えている。まだ冷たい朝の冷気を吸い込んで火照った体を程よく締める。
偵察部隊のケイコ指揮下の1班と、がさつな男たち2班が時間通りに揃った。支給品が詰まった背嚢に加え、銃と弾薬、
そして自分たちだけではなく整備の人たちも集まってきている。白煙を吹き出しているバイクを挟んでケイコと何やら話していた。
「アイドリングが不安定じゃないですか?」
ケイコはバイクのスロットルを回した。短い爆発音に合わせて白煙がマフラーから立ち上る。刺激臭の強い排煙が朝霧のように視界を遮った。
「部品の納品が遅れているんだよ。合成ガソリンの質だって落ちてきてる。いったい何を混ぜてるのやら」
「ぎりぎり帰ってこれそう」
「その後はまたオーバーホールだよ。ったく工場長も『2stエンジンくらいおもちゃなんだから半日で終わらせろ』だ、なんてよく言ってくれるよ」
整備士は機械油の染み込んだオーバーオールを叩きながら言った。軍隊、といってもいろいろな人が働いているんだな。
「さて」ケイコがくるりと踵を返した。「アイカは私の後ろ、シホはアップルの後ろに乗って。アップル、この前教えたとおり、1速の上がニュートラルだからね」
「はーい、了解」
「アクセルを戻してクラッチを触るの。アクセルもゆっくりよ。じゃないとひっくり返って怪我するのはシホなんだから」
視界の端で鋭角ツインテールがヒンッと揺れた。
朝でもアップルはいつものふんわりボイスだった。。アップルは背中に長い銃身のライフルを担いでて、いかにも大人な戦士、といった風だった。
ケイコは自分の荷物をバイクのリアシートからぶら下げると、シートに跨った。
「ほら、アイカ。バイクは乗ったことある?」
「全然ないです。乗り物なんて財閥さんたちしか乗れないじゃないですか」
「金持ち連中の電動車とは違う、合成ガソリンで動くバイクよ。ステップに足を置いて、手は私の腰とフレームのグリップを握るの」
言われた通りにしてみた。エンジンの振動がブルブルとお尻に伝わってくる。シートが狭いせいでケイコと密着する形になってしまった。目の前の大きな背中にドキドキする。背嚢の重量は幾分楽になったけど、体を前傾しないと振り落とされそうになる。
「アイカ、あまりくっつくと運転しづらい」
「エヘヘッ、すみません。でも落ちそうで」
「加速するときはグリップ、減速するときは膝を閉じるといい。ま、すぐに慣れるわよ。落ちたら叫んでね。迎えに行くから」
冗談なのかいまいち判別がつかない。
出発。あたりはすっかり明るくなっていた。ケイコのバイクを先頭に瓦礫の町並みを進む。風で髪先がこすれてこそばゆい。これはこれで楽しいかもしれない。
「
「訓練のときに何度か。でもここまで遠くへ来るのは初めてです。昔、たくさんの人がいたんだな、って思うと、なんだか悲しいです」
「昔 ここは姫路と呼ばれれていた街なんだって。あそこに大きな古代のお城があった。4度目の大戦でも無事だったらしいけど、
「へぇ、詳しいんですね」
「
つまりもともとは
「やっぱり
「ううん、そんなことはないわ。
「スカベンジング?」
「姫路や神戸みたいに戦前の古い街に行くの。古い機械部品や
バイクに揺られて景色を流し見していたが、よく見ると教練で習った地雷原のマークが白チョークで書かれている。
「気づきませんでした」
「そんなにギュって持つと運転しにくいって。せめて
「す、すみません」
ついつい力が入ってしまう。初めて見るバイクだからというのもあるし、初めての
「まだ味方の砲撃範囲内だから。
頼りになる大きな背中。自分と歳は1歳差だけなのに何倍もの経験の差を感じる。それでいて厳しくなく穏やかな隊長だった。
がたがたと揺さぶられながらデコボコ道を進んでいる途中、ケイコはハンドサインで後続に減速を伝えた。偵察隊のバイクの車列は戦前の古い施設に着いた。しかしよく見るとタイヤ痕がありどれも新しい。瓦礫もきれいに取り払われている。
「ここは補給所。復帰民の言い方で言えばガススタンド。ガソリンをここで入れて行くよ。敵前でガス欠なんて嫌でしょ」
兵士たちがそれぞれのバイクのタンクにすえた臭いの液体をジャバジャバと注いでいく。
「これがガソリン……爆発しますよ」
「何言ってるの。おもしろのね」しかしケイコの目は笑ってない。「これは合成ガソリン。何種類か薬剤をかき混ぜて作るの。兵站部の人が用意してくれてるから。水と医薬品も運が良ければそこの小屋にあるから」
「わたし、不思議です」
「あら、まだ説明していないことがあった?」
「
「
なるほど。戦術と戦略は養成課程で少し学んだ。
じゃあどうして何十年も戦争が続いているのだろうか。
しかしアイカは頭を振って雑念を振り払った。
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