第3話 最悪な上司

やがて、無事に就職が決まる。でもそこはとても小さな会社らしく、とてつもないブラック企業だったという。


鈴木さんは、最初の数週間は何事もなかったように仕事をこなしていた。ところが次第に小さなミスを繰り返す。人に聞く、伝える。1番肝心なところがまるで出来なかった。つまり『報連相』が最も苦手だった。


1人でやってきた鈴木さんはやがて小さなミスの繰り返しにより、上司に厳しく指摘されることとなる。

「ねぇ、なんでこんな簡単な事も出来ないの?」

「すみません」

「いい加減にしてよ、いつになったら出来るの?」


必死で出来るようになろうと努力はしていた。でも上司からは一切認めてもらえず、ましては褒められる事はまずなかったそうだ。


次第に心が病んでゆく。

ある日の事、鈴木さんのほうからその上司にこういったそうだ。

「僕、何かあるんじゃないでしょうか?精神的にとか発達に何かあるんじゃないでしょうか?」


すると返ってきた上司の返答はこうだったという。

「それはお前の考え方が甘いだけ、もっと悪い人はたくさんいる」


つまりその当時上司が言いたかったことは、精神的や発達に何か悪い人という定義が突然奇声を発したり、手首に刃物を切りつけ自殺するような人が病的な扱いで、小さなミスを毎回繰り返すような人間は、ただ単に考えが甘いだけ。そんな考えをした上司だったそうだ。


発達障害イコールただの甘え。と、定義されてしまっていて病院行っても無駄。とまで言われてしまったくらいだ。

他にもたくさん言われた。


「お前は何を言っても直んねぇ。言っても無駄だ」

「お前はどうして生きてるの?」

「いらない、邪魔。社会のゴミ消えろ」

「これは俺の育て方が悪いのではなく、全てお前自身の問題」


こういう上司のもとで鈴木さんはなんと何十年と働き続けたという。

そして社長も歳で会社の存続も難しくなり倒産する事となる。


その頃には鈴木さんのメンタルはもうボロボロ何も出来なくなる。自責の念に駆られる。悪いのはすべて自分のせいだと思い込むようになる。


「僕はもう何をしても駄目だ。上手くいかない。僕はなぜ何も役に立たない。生まれて来なきゃ良かった」


鈴木さんは毎日がつまらなくなり、あれほど好きなゲームもまるでやらなくなったという。

部屋に閉じこもるような毎日を過ごすことになり、鈴木さんは何も得ず時間だけが消費してゆく日を過ごした。


それから1年間仕事は何もしなくなった。もう貯金がない。親も歳だ何とかするにも何も出来なくなってしまった。


もう鈴木さんの精神は本当に極限のところまで来てしまったようだ。これ以上親にも迷惑かけられない。周りの目もある。


だけど鈴木さん自身が社会復帰したら、きっとまた会社の人に必ず迷惑かける。そう思い込むようになってしまったのだ。


会社にいるというのは少なからずともある程度利益を出せる人間だ。鈴木さんは何も利益を出せない。会社にいる資格もない人間だという事を完全に思い込んでしまっている。


こうなるともう誰がなんと言おうと救うことは難しくなる。

かといって鈴木さんは誰かに攻撃したり、物を破壊したりとはしない。ただひたすら自分を追い詰める。そういう人なのだ。


会社で1人でも鈴木さんを頼る人間がいれば、相談できるような相手もいれば、ここまで自分を追い詰める人間にはならなかったのかもしれない。


しかし、誰も頼る人はいない。厄介払いをされるかの如く、全員から攻撃や口撃を受ける。正直地獄である。

人格否定され、努力不足と言われ、挙句の果てには自分という人間を完全否定される。そうなるともう自分から何も発信せず、話しかけられても本当に必要な事以外、鈴木さんは何も反応しなかったそうだ。


「僕はもう社会では何1つ役に立たない人間なんだ。という事は解決方法は1つ自分がこの世から消えれば良い、これなら誰にも迷惑かけない」


そう完全に思い詰めてしまった鈴木さんは、鏡を見て自分自身に向かってそう言い、極限の精神状態の中なんと自殺を図ろうと震える手でペンシルを握り締め首を突き刺し、真っ赤な血飛沫ちしぶきが鏡のほうに勢いよく吹き、意識を失い倒れた。


ー続くー







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