後輩がコーラ飲んだら歯が溶ける!とか間違った知識を持っていたので、キスして溶けてない事を証明してみた

ぼたもち

第1話

「先輩。 知ってますか? コーラ飲むと、歯が溶けるんですよ」

「……ほう」


今日日、そんなことを信じるやつがいるとは思わなかった。


夕日差し込む教室にて、俺は後輩の佐藤瑞葉と、机一枚挟んで向かい合うように座っている。

時刻は5時を過ぎていて、この雑談も既に1時間が経過しているようだった。


して、そんな中で事件は怒る。

俺がコーラ2本目に突入したのを見て、突然後輩が……瑞葉が、『コーラを飲むと歯が溶ける』とかいう話を振ってきたのだ。←イマココ


「あ、知らなかったんですか? 全く……先輩は世間知らずなんだから……」


果たして、コーラ飲んだら歯が溶けるという知識を知らないことは、世間知らずということになるのだろうか。


いや、それを嘘と知らないこいつの方が間違いなく世間知らずだ。つかアホだ。


……全く、仕方ない。

先輩たるもの、現実を教えてやるのもこいつのため。

少しは先輩らしく、間違いを訂正してやろう。


「あのな、瑞葉。 コーラ飲んでも、歯は溶けないんだ」


飲んでいたコーラを机の上に置いて、真顔でそう言う。残念だが慈悲はない。


「あはは、先輩、それどこ情報ですか」


いや、ネットでよく見るだろ……ネットじゃなくてもよく聞くだろうが……。


「あのな、コーラとか炭酸飲料に含まれる成分で溶ける可能性はあるが、飲むといった、一瞬しか歯に触れない行動程度では、溶けることはなく……」

「えー? でも溶けるんですよね?」

「いや、だから『コーラを飲む』という行為では溶けない……」

「なんか、よく分かりません!」


ぐあー! と、声を荒らげる後輩。

うーん……そんなに難しいことを言ったつもりはないんだけどな……。 馬鹿だから仕方ないのかな……。


「先輩の言うこと、難しくてよく分かりません」

「いや相当簡略化して言ったんだが」

「先輩の簡単は、私にとっての簡単じゃないんですよ!」


むぅ……困ったものだ。


何が困ったって、残念だがこの俺は、自分が正しいはずなのに、グダって「まぁその話は置いといて!」みたいになるのが嫌いなのだ。


絶対に勝てる勝負は勝っておきたい。俺のあまりにもくだらないプライドが、俺自身を困らせている……。


「先輩、私より頭いいし」

「それは関係ないだろうが」

「私馬鹿だからわかんないですし!」

「多分中学生でも……人によっちゃ小学生でも理解できるぞ」


だから……そうだな。

このバカには恐らくだが、口頭で伝えることは不可能だ。俺との知能の差がデカすぎる。自画自賛じゃくて、マジで。


では、自分で調べてもらうか……いや、ネットに書かれていることの方が理由は分かりずらい可能性が……。


となれば……結論はただ1つ。

言葉は使わず、一切の知能をも使わせない。

そんな、この後輩に何かを伝えるにおいて取っておきの、その方法。





「身体的接触……だな」

「え?」




柔らかかった。

座った後輩に合わせるために少し屈んで、俺はキスをする。

後輩の肩が震えたのが分かった。


「っ……せんぱっ……」

「しっかり、理解しろ。 正しいのは俺だ」


もう一度、唇を重ねる。

これは、身体的接触だ。

世間知らずの後輩に、真実を教えてあげるための行動だ。


コーラじゃ歯は溶けない。

だから、舌をいれて……、歯が溶けていないことを証明する。それは何らおかしくない。

舌を絡めることも、僅かに漏れる吐息に少し興奮したのも、もう既に何度も唇を重ねていることも。

無我夢中で貪ることだっておかしくないはずだ。


だから……


「せんぱい……息……、苦しい……」




はっと、意識が戻る。


「ぁ……あぁ、」



さすがに、やりすぎだった。

真実を伝えるために、こんなことは必要ない。

一度で……よかった。数秒でよかった。

何を……しているんだろう。


「すまん」

「全くです」


一度冷めてしまった熱は、戻らない。一度覚めてしまった夢を見るのは、なかなかに難しい。


「本当に……許せないです」


唇がわなわなと震えた。


「絶対……許さないです」

「いや、マジですまん」

「なんでですか……」

「お前に伝えるには、これしかないなと思って……」


「なんで……」






「なんでファーストキスが、コーラの味なんですか!!!!」

「いやそこかよ!?」




明らかに怒るとこ違うだろ!


「ふざけないでくださいよ! 超コーラでしたよ! 舌を絡める度に超絶甘ったるかったんですけど!!」

「いや、完全に悪いのが俺だった手前なんとも言えんが、そこに怒るのはやっぱ違くない!?」

「違くないです! あと、先輩私に息させてくれないとか、どんだけキス下手くそなんですか!」

「うるせぇよ! こっちも初めてだったんだから仕方ねぇだろ!」


叫んだ途端、教室がしん、と静まりかえる。

まずいことを言ったか……?

不安げに、後輩の顔を除く。



驚いたように、目を丸くさせている。


頬が……赤く染っている。

それが果たして、夕日によるものなのか、その一瞬では分からなかった。


「先輩……初めて、なんですか」

「……いや、そう、だけど」


お互いに、どこか気まずくて、視線を逸らす。

あぁ、本当に馬鹿でマヌケだ。

こいつは……いや、俺も。


たかだかコーラの話をして、ちょっと考えればすぐに解決できる程度の話で、こんなに意味のわからない展開になるのだから。


「……今度は、コーラ以外で頼みます」

「……そうか」


好きという言葉だけは、どうにも伝え方が分からない。

簡単に証明出来るのならば、どれほど良かったか……。


「今度は、無味無臭で、しっかり息もさせてくださいね」

「いや、今度とか来ないから」

「え、先輩がやってきたんじゃないですか」

「今回はお前にコーラで歯が溶けないことを教えるためにやったんだ!」


ココ大事! 誰も後輩にキスしたくてキスしたわけじゃない!


「……まぁ、そういう事にしといてあげます」

「……助かる」



「コーラで、歯は溶けませんね」

「……あぁ、そうだろう」


夕日に照らされて教室で、俺は頬が熱いのを感じながらも笑みを浮かべた。

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