第107話 猛攻

 秋も中旬から下旬へ。夏休み明けから濃くて濃くて、落ち着かない日々を過ごして、やっと休息が得られる時期に入った今、クラスでもそれは如実に現れている。いや、1人を除いて。


 寒さが体を覆い始め、クラス内の暖房をつけろと苛立ちを覚える生徒もいる中で、俺はそんなこと無関係に、隣から怒涛の質問攻めを受けていた。


 「――それで?興味ある女子は、私と姫奈と由奈と伊桜さんだけでいい?」


 「……は、はい。その人たちだけです」


 「なら、この中で誰に1番興味がある?」


 続いてこの質問で10個目。昼休みが休みではない今日この頃、花染の落ち着きのなさは、寒い寒いというクラスメートの対比であり、常に喋っているので頭から蒸気が出るほど暖かそう。


 「興味か……平等だな」


 「ホントに?誰か特出してない?」


 「……私は知ってるから、本当を話せって言われてる気がする」


 まさにそんな目つきだった。睨む手前、俺のことを詮索するのは止めず、未だに過去のことを思い出して詰め寄る花染。華頂からは「余裕なくなってきた」と笑われて、それに悔しがる表情を見せては、俺にそのストレス?を打ち付ける。


 サンドバッグの気持ちが分かった気がする。


 「普通に平等だけどな。誘われたらそれに頷くし、出来る範囲で付き合ってると思うけどな。確かにその人たちの中では差はある。花染と華頂を比べれば、圧倒的に花染に関わってる時間は長いし。でも、平等って観点なら、誰も特別視してないぞ」


 ただ、を好きになりたいだけで、関わり方は変えてない。今の自分を変えれば、それは即ち、性格や対応を変えないと好きになれないことの表れであり、素で関わることの意味をなくす行為となる。


 だから俺は、いつも通り、人との関わり方も変えないし、頼みごとも頷いて、質問という拷問にも答えている。


 「んー……じゃ、誕生日何してたの?前日に連絡しなかった私も悪いけど、その日に連絡したら一向に既読されなくて。誰かと一緒にお祝いされてたんじゃないの?」


 答えれるけど、答えればそれは怜の秘密を漏洩したとも言える行為。俺が嘘を被らなければ、自分を偽ることに一生懸命な怜の大迷惑になる。


 本当に嘘は大嫌いだ。いいことなんて全くないし、友達の間での冗談じゃないのなら、薄っすらと胸に傷がつくから。でも、こればかりは仕方ない。隠れた関係も含めて、その時でしか関われないのなら、それは本当に仕方ないことなんだ。


 「。誕生日なんて自分でも忘れてたし、1日寝てたから夕方に気づいただけだ」


 夕方に気づいた時は焦りに焦った。外に出たら花染が居るんじゃないかって。それほどする人だと最近知ったので、やるとは思ってた。だからそれから帰りが30分遅れたのも、今はありがたくても、当時はヒヤヒヤしていた。


 「嘘つかないのが隼くんだからそうなんだろうけど……怪しいなぁ」


 頬杖をついて、嫌悪感を見せているのか、俺を睨みつける。やはり怜との関わりは知られてないらしいが、爪痕は残してるらしい。気づかれないように細心の注意を払っているが、それすらも無効とは。


 だが、これではまだ真相には辿り着けない。俺は元から怠惰なので、既読は遅いのだ。それは周知の事実であり、確認も取れている。だから、深くまで違和感を与えることはない。


 「もっと調べるか?」


 「うーん。これだけ怪しんで何も証拠が出ないのはやっぱり違うのかな?」


 「何をそんなに気にするんだ?俺の好きな人?それともその相手?」


 「隼くんの性格を知りたいの。どんな人が好きで、どんな人が嫌いなのか。知れることはとことんね」


 「最近になって俺に興味を持ち始めたよな。そんなに魅力的になったのか、俺も」


 「元からでしょ」


 怜が裏に隠れてるから、それだけで詮索されて注目を浴びる。それは花染だけでなく、華頂や青泉、蓮や千秋といったいつメンも同じこと。嘘をついたあの日から、日々変化した俺の周り。少しずつ、俺も変わって変えられてきているんだろうか。


 「あーあ。よく分かんないよ。この前のハロウィンパーティーも来てくれたし、それ以降も女の子の気配も、私以外の人との関わりも感じないし、どういうことぉ?」


 「普通に生活してるだけじゃないのか?」


 「そうなのかな?そうなの?」


 「普通に生活してるだけだな。なんの色もない、ただ普通の高校生活」


 とは思ってないが。


 実は誕生日に連絡を返して、それに返ってきたのが、ハロウィンパーティーのお誘いだった。結構お怒りのスタンプが送られていたが、気にすることなく承諾したので、いつメンでいつも通り騒がしい日を過ごしていた。


 「花染は俺に何を求めてるんだ?応えれるなら応えるけど」


 「……今ここで頼めないよ。それに、隼くんが私の気持ちを理解した時じゃないと、意味がないことくらい私でも知ってるから」


 「俺が花染の気持ちを知る?無理無理、俺、女子の気持ちホントに分からないから」


 「だから、それを何とか分かるようするために、私は今奮闘してるの」


 「難しいな」


 自分の気持ちにすら、今は曖昧で忙しい。なのに追加で他人の気持ち。しかも花染。難攻不落の要塞が目の前に現れると、こうも気分が落ちるとは、初体験も笑えるものだ。


 聞く限りでは、俺が悪い側なのだろうが、自覚ないのは申し訳ない。

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