第106話 大きな約束

 今日は良い日だ。そう思うのはのはずなのに、私がより思っている気がする。我儘を聞いてもらっているからだけど、そんな私を許してダメにしている隼も中々に悪い。


 「ありがと。これで、お互いホントに友達として距離を縮めた気がするね」


 「そうだな。間違えて学校で呼ばないようにしないと」


 友達が終わったなら、次は恋人として距離を詰めなければいけない。それは義務だ。誰がなんと言おうと義務だ。


 「呼んだ時は……呼んだ時でどうにかしないとね」


 呼んだ時。その時は私の存在がバレる。注目を集める。


 待って……そうなれば私は…………。


 ――何故私が私を偽るのかを、隼に教えよう。隼を好きになってしまえば、付き合いたいと思う。誰にも渡さず、私の隼だと主張するために。


 バレてしまえば、偽りの理由を言わなければならなくなる。本当は言いたくなくて、高校卒業まで貫く予定だったけど、もうその必要もなくなるから。隼がもし、私の隣に立ってくれるなら、そんな心配は消え去るから。


 言おう。私に寄り添ってくれるタイミングを見計らって。私は悪巧みだけは得意だ。隼を振り向かせるために、女子の中の醜いドロドロした恋愛の勝負に、私は足を突っ込む。水面下の争いに、勝つために。


 「隼、いきなりで悪いけど、次会う予定を決めていい?」


 「どうぞー」


 「クリスマス、2ヶ月後だけど、私とデートしよ」


 「……外でデート?」


 「うん。その時に、私との関係で1番気になってることの答えを教えるから。だから、絶対に空けてほしい。クリスマスじゃないと、私言わないから」


 絶対だと、誘われても断れと、私はそう言った。そうすれば、隼は絶対に来てくれるから。知りたいって、私に興味を持ってくれてるから。


 でもこれは、リスクが高い。クリスマスともなれば、花染さんたちも誘うだろう。その時、嘘をつけない隼は私だと言うはず。林間学校もそうだったと聞いたから、それは間違いない。


 ならば、流石に賢いいつメンたちは察する。隼と私に何かがあるのだと。でも、それでも良い。隼が私を選んで聞いてくれるなら、バレたとこで今更恐れはないのだから。


 「そんな縛りが掛けられてるのか?大変だな」


 「まぁね。だからクリスマスは私とデートだよ」


 「了解。怜が誘ってくれたなら、暇人で怜ファンの俺が頷かないわけないしな」


 「ふふっ。期待に応えてくれるのは流石だね」


 約束は絶対守られる。隼との破られた約束なんて、これまでなかったから。私は安心している。いつか自分でも取り払えなくなるこの呪縛を、簡単に取り払える人が目の前に存在しているのかもしれないから。


 過去の物語は、私を強く縛った。もう、1人では夜すら歩きたくない今を、隼は相性だけで埋めてくれた。夏休みに花火などの思い出を作りに来た日、その日は夜に帰宅だったけど、隼は喜んで付いてきてくれた。声に出して伝えずとも、優しさだけで阿吽の呼吸を築けた。


 に隣に並んで歩いて帰ったけど、相変わらず、ペースを合わせたりする優しさは健在だった。


 そんな隼となら、私は偽りを消せる。消してみせる。


 それから、私たちは隼の誕生日を楽しんだ。いや、誕生日だからといって、何か特別なことをしたわけではないけど。ただ、会うための理由として、偶然あった誕生日を借りただけ。


 そんなことはお互いに理解している。隼だって、「俺の誕生日か」と、何度も言っていたし。楽しかったんだから、それでいいんだ。


 「もう17時前だって。暗くなり始める頃だよ」


 隼の膝の上に頭を載せて、目先にある顔を見て言った。下から見ても、綺麗に縁取られた容姿は文句なし。吹き出物なんて皆無だ。


 「帰るのか?」


 「暗くなったら、隼に背中を押してもらわないといけなくなるから」


 「嫌だって言い方だな」


 「全然そんなことないよ。けど、送ってもらうと、隼のことが寂しくなるから」


 恥ずかしさも抵抗もなくなった今、想いそのままに伝えれる。


 「そうか。ならお開きってことか。そう思うと寂しさあるな」


 「仕方ないよ。こんな美少女と別れるのは誰だって寂しいだろうし」


 「間違いないな」


 「でしょ。暗くなる前に帰らないとね」


 帰ると思えば、既に隼に恋した私は少しつらい。今度会うのはクリスマスということを決めてしまったから、その間、学校でもそんなに話せない。


 でも、それが今後のためになるなら、受け入れるしかない。だから、今のうちに、と、私は体を動かして横になり、隼の腹部に顔を向けた。


 「何してるんだ?」


 「今度は2ヶ月後だからそれまでの充電ってやつ」


 これまで抱き枕だった相手が、隼に代わった。両腕で隼の胴体を掴んで顔の前まで引き寄せる。


 「これ、普通恋人同士がするもんだろ」


 「親友なら変じゃないでしょ?男女の親友なら、これくらい普通だし」


 そんなことはない。親友でもあるけど、好きな人でもあるから出来る。


 「んー、まぁ、定義も曖昧だしな」


 「っそ。私たちは私たちだからね」


 我ながら積極的すぎるとは思ってる。けれど、いい攻め方だとも思う。きっとこれなら、私は負けない。卑怯でも何でも――最初から隼の興味を惹いた私が有利なんだから。


 「それじゃ、帰ろうかな!」


 「誕プレありがとな。大切に使う」


 「うん。予備は使っちゃだめだよ」


 「破れなかったらな」


 破れても、隼なら置いてくれてるさ。


 時計は17時を知らせていた。帰るには早いけれど、クリスマスが控えてるとなると、そんなの些末なことだった。

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