第103話 気づくのは突然

 でも、恋愛感情があればということは、今はまだ持ってないということでもあった。鈍感だからこそ、その気持ちに気づいたり知ることは遅れる。理解してるけど、その気づいた相手が私じゃない可能性を考えると、少しムッとする。


 天方にはいつも、情緒不安定にさせられる。


 「天方に私は、高嶺の花だよ」


 「そうか?誰でも付き合えそうだけどな」


 「最低」


 「全然嘘。高嶺の花すぎて付き合えるとか考えるのも失礼と思わせられる」


 「それも最低」


 天方になら好かれたいし、付き合いたいって思われても嬉しい。そういう関係もありなんじゃないかな、とは思ってるし。


 「でもなー、天方に好きな人出来るイメージないんだよね」


 「それは俺も思う。未だに好き嫌いが分からないから、隣に好きな女子を置ける気もしない」


 「なんか悲しいね」


 「そうか?だんだん、なんとなーく好きってことが分かってきた気もするから、悲しくはないけど」


 「ふーん」


 危険信号は常に点灯している。花染さんか、青泉さんか、はたまた華頂さんか。美少女に囲まれて生活する天方だからこそ、選択肢は3つある。私じゃないのが最悪な展開だけど、それは仕方ない。私は偽りだから。


 「分かるといいね。その相手が私だったら嬉しいけど」


 なんて、無意識にも口走ってしまう。気付いた時には、もう遅かった。


 「俺も、元は好きになるつもりだったから、それが良いんだろうけど、難しいんだよな」


 聞かなければ良かった。難しいという言葉を聞きたくなかった。それはつまり、私を好きになる可能性は、今のところ薄いということ。


 「……私に不満が?」


 「いいや?周りが美少女だらけで、感覚がおかしくなってるんだよ。俺にも、伊桜だけが友だちなら、とっくに好きになってるとは思う。けど、花染たちが居ると、美少女と楽しく遊ぶのが当たり前になって、普通の基準が高くなるんだ」


 「私に不満ないなら、それでいいけど、美少女に価値観変えられるのは大変だね。もう私だけにすれば?」


 「それは無理。みんな友だちだし、楽しくて一緒に居るんだからな」


 知ってた。その答えを望んで言ったまである。けど、私は天方しかいなくて、天方は私以外にもいる。これが少し悲しくも悔しかった。この気持ちを共感出来ないことが、心寂しかった。


 「けど、恥ずかしながらそうしたいと思う気持ちもある」


 「……え?」


 掌返し。私は驚きつつも、思わずソファの外で胡座をかく天方に目線の高さを合わせた。気分が良くなったのだ。今日何回目かの、私らしいメンヘラな部分。そんな私を見ず、天方は視線を逸して言う。


 「意外と独占欲は強い方で、伊桜のことは誰よりも一緒に居たいと思う。楽しいし、素で好きなことを言えるから、結構何回もな。だから、伊桜と2人で、っていうのは何回も考えたことはある」


 淡々と語られるそれは、それでも私を好きと気づかない、いや、思ってない人の言葉とは思えなかった。私の心の中に入ってくる、優しい、恍惚とさせる言葉は、私に、天方を想う気持ちを教えた。


 私が……天方を好き。


 考え思うと、ボッと顔が熱くなるのを感じる。先程から厄介だった妨げ。思考する時、常に邪魔したある考えは、天方を想う気持ちだったのだ。


 言われて、こんなにも天方にドキドキしたことはなかった。動悸が激しくなるのも、それを好きだと知り、好きということが本当だからだ。私は思わず瞬きを何度も繰り替えした。


 「……伊桜?黙られると困るんだけど」


 「……あぁ……うん。嬉しいこと言われたから、つい考え込んじゃった」


 「それにしては、顔赤くないか?」


 額に触れようと伸ばされる手。それがゆっくりに見えるほど、私にアドレナリンが分泌されていた。


 「うわぁぁぁぁ!!ストップ!!」


 「…………」


 ビクッと驚き、目を見開いて手を止める。前かがみに私へ触れようと、抵抗もなくする姿に嬉しく思いつつ、驚かせたことを悔いた。せっかく触れてくれようとしたのに、熱を奪われ、私が天方を好きだということを少しでも感じ取られたくない一心で避けてしまった。


 「びっくりした。何?俺の手はそんなに嫌悪されてるのか?」


 「いや……ちょっと叫びたいなって……あはは」


 苦し紛れの言い訳。でも、天方の頭なら、そうだと受け取ってくれるはず。こういう時、アホで鈍感なのは助かる。唯一の利点だ。


 「最近の伊桜って、変人に磨きがかかってるよな。大丈夫か?」


 「大丈夫だよ。最近変なことが起こりすぎて、混乱してるだけだから」


 その張本人が目の前に座っている。何も知らない、無垢な表情で、1人でソファを独占する私に何も言わない優男。よく見なくてもカッコいいその顔のパーツは、私の動悸だけを激しくする。


 このまま自分のものにしたい。頭を掴んで抱きしめたい。なんなら、気絶させて監禁する、なんてこともありだと思うほど、私は天方に惚れていた。


 元から独占欲は強いと知っていた。けど、天方と触れ合うと、天方としか触れ合わない私には、その存在がとても大切に感じた。離せばこの幸せは消えるのだと、そう思うとつい想いが重たくなる。


 私も大変だな……。


 「伊桜も変わってきてるんだな」


 「私もそれだけ影響されてるってことだよ。天方にはいい刺激を十分貰ってる」


 「なら、そうやって俺の顔をずっっっと眺めるのやめてくれ。満足したなら、そんなに見なくても良いだろ」

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