第96話 怪しい

 違和感を抱いたのは、打ち上げの時だった。挨拶を終えて、いつメンの集まる席へと腰を下ろした時、その時にはもう伊桜さんと隼くんは話していて、私の入る隙はなかった。


 あまりにも早い関係だった。私が隼くんと仲を深めて、話せるようになったのは、話し出して2週間ほど。相性とかがあるとしても、初日で意気投合は隼くんに限っては信じれなかった。


 これもまた、私が勝手に妄想してるだけの思い込みなのかもしれない。だけど、それでも疑わないと落ち着かなかった。私は余裕がないと言えば余裕がない方。隼くんという、本人は自覚してないけど人気のある男子生徒を好きになってしまえば、ライバルはそれだけ多いのだから。


 だから考える。隼くんの身の回りで、関わろうとする人は全員好きだと思っているから、執拗に目を向ける。


 そして林間学校。飯盒炊爨から時々目を向けたが、その時は由奈がワイワイしていた。隼くんに迫って、私が落ち着かなくなって2人に迷惑をかけたのは申し訳ないけど、伊桜さんに手を出す素振りはなかった。


 けど、肝試し。これは決定的だった。19と20番目の2人は、私が戻ってきても、まだ準備中だった。そこで2人が仲良く話しているのは、途轍もなく違和感だった。


 隼くんが伊桜さんと会話するのは違和感ではない。触れることが違和感だった。肝試しに行く前に、姫奈とおまじないと言って触れ合ったのは知ってる。けど、いくら相性が良いとしても、どう見ても隼から触れに行ったのは納得出来ない。


 触れることは苦手だと知るから、私たちもそれを求めなかった。しかし、打ち上げで由奈に触れたことを何とも思ってないことを知り、姫奈はそれが大丈夫か、私に教えるために先に触れて確認した。


 結局大丈夫で、触れることを許されたようなものだった。けれど、触れに行くことは未知だった。いつメンだとしても、それは知らなかった。触れることに抵抗はあるのだと、そう思ってた私には衝撃的だった。


 嫉妬はもちろんした。お互いに手に何かを書くように、楽しそうに会話するのが、私は見たくなかった。先に出会ったのに、どんどんと先へ行かれているようで嫌だった。


 けどそれは我儘で、止めてと言えるほどの立場にいるわけでもないからそっとしていた。


 私は伊桜さんと隼くんの関係は怪しいと思う。何かしら、2人でしか知らない何かがあるはず。それは勘違いではないとも思う。私の勘は、今回は何かしらの情報を確実に違和感として捉えたのだ。


 「何をそんなに深刻に考えてるの?」


 隣に座る姫奈。隼くんと私をくっつけるために応援してくれる友人だけど、面白さを求めるから絶対の仲間というわけでもない自由人。


 「いや……帰りは隣同士って怪しい。林間学校で一緒に遊べなかったから、帰りくらいは、と思って選んだのかもしれない」


 「何?また隼くんのこと考えてるの?聞かせて聞かせて」


 「いい答え返ってこないでしょ」


 「それはどうだろうね。時々良いことは言うけど」


 「1年に1回くらいね」


 「それが今かもしれないじゃん」


 真剣にも適当にも相談に乗るのが姫奈。気分でアドバイスも送ってくれるけど、無意味なことや手遅れなことばかりで、あまり使い道はない。


 「それじゃ、隼くんと伊桜さんの関係について、姫奈はどう思う?」


 「私は普通だと思う」


 「ただ相性が良かったってこと?」


 「うん。隼くんの性格上、打ち上げの時に、いつも1人で静かな伊桜さんを気遣うのは当然。二度見するくらい驚いたけど、よくよく考えれば違和感はないよ。もし関係があって隠してるなら、隠し事苦手な隼くんならもうバレてるだろうし、私たちに言ってるでしょ」


 「んー……」


 どうだろうか。隣になってから、距離を詰める早さが普通じゃないのは、私だけが関じてるのか。少なくとも、伊桜さんは隼くんに対して好意を抱いているのは間違いない。話して、あの顔に相性良くて話しやすいって言われたら、多分恋に落ちる。


 その上で……いや、今は姫奈の言うように、静観するのが得策かな。


 「好きになって、自由に隼くんの周りを偵察するのはいいけど、それが因果応報にならないようにね」


 「大丈夫」


 「そもそも、そんなに心配しなくても、佳奈は可愛いんだから焦る必要ないと思うけどなぁ。何回も言うけど、私か佳奈に振り向かないで、他の女の子に振り向くわけがない。この言葉を信じなよ」


 「もし、その後に好きな人が出来て、考えが変わったら?」


 「それはないよ。聞いたんでしょ?由奈から」


 「……まぁね」


 私がこうも焦って、可能性があるならとことん詮索を始めた理由、それが由奈の告白だった。由奈本人から聞かされて、結果は完敗。恋を知らないからと、振られた理由も聞いて焦りだした。


 これは、誰が先に隼くんに「好き」を教えるかの勝負。私じゃない人のところで、多くの刺激を受ける隼くんだからこそ、警戒は常にしている。


 現在の最大のライバルは由奈。それは変わらない。告白した人間は、好きを知らなくても記憶に残る。初めての告白なら、それは尚更強く。


 しかし、やはり私の中で1番へと躍り出るのは伊桜さんかもしれない。そう、この瞬間に思った。


 たった今見えた動き。少し体を前かがみにして覗いた先、そこには肩を寄せ合い、静かに瞼を閉じる2人が座っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る