第88話 いつもの流れ

 いつメンと関わるようになって、特に花染と華頂の会話は難しかった。気持ちの話をしてる時なんて、何1つ分からなかった。それが今にも影響して、結局は理解を諦めたが、気になるのは拭えない。しかし。


 「分かることは1個だけあるんだけど、華頂は早くパートナーのとこに戻った方がいいって思うことなんだけど」


 「……え?それ本気で言ってる?」


 信じられないものでも見たように、俺の目を見つめて驚く。


 「本気の本気。ずっと感じてる」


 「それ分かるのに自分のは……罪な男だね……」


 「ん?」


 最近の俺は無意識に罪を犯してるので、今更1つのことで呆れられてもなんとも思わなくなった。耐性がついたのだが、多分結構必要ない耐性なのは分かる。


 「とにかく、戻った方が俺的にも良い気がするんだけど」


 チラチラと視線を向けられるのは落ち着かない。確かに、自分の好きな人が違う男と居るのは、殴り込みに行きたいほど許せないのだろう。分からないけど分かってるつもりではいるため、多分正解だ。


 「はぁぁ。戻らないよ。私は私を貫くから、自分の今やりたいことをする。今は弟が肝試しに怯えてるから、それを落ち着かせるのがやりたいこと。だから動かなーい」


 「二色泣き出しそう」


 「泣いたら肝試し辞退させて、私は隼くんと由奈と一緒に肝試しするよ」


 「泣かせるのありって思った俺、中々酷いかもしれない」


 「恋愛に於いて、酷い人って結構出てくるから珍しくはないよね」


 「知らないけどな」


 学生の恋愛に、問題は付き物だとは思う。気分で付き合ったとか、周りに言われて付き合ったとかもよく耳にする。喧嘩とかも聞くし、停学も1回聞いた。恋は人をおかしくさせるには十分な材料だ。それに混ぜられるのだけは嫌だ。


 だから今、二色から見られてるのもめちゃくちゃ嫌だった。しかし、華頂の言い分も分かるので、ここは被害が出ても華頂と解決出来ることを選んで、無視することにする。


 「姫奈と二色くん。次だから並んでてー」


 張り切る青泉に手招きされて、華頂は片手上げて答える。「はーい」といつものテンションで言わないのは、夜になるに連れてクールになる華頂の性格が関係している。


 「お姉さんが居ないからって泣くんじゃないぞ?」


 「俺よりも二色が泣かないことを心配しろよ」


 「もし私が戻ってこなかったら、その時の犯人は二色くんだから」


 「護身術習ってたんだろ?心配しないから、自分の身は自分で守れ」


 「ちぇっ。可愛くない弟だね」


 「華頂もな」


 伊桜寄りの女子。クールは稀有な存在なのに2人居て、しかも美少女なのだからこの学校も素晴らしい顔面審査だ。伊桜は可愛いと言われるよりクールと言われたい、華頂は護身術を習って男の大人2人同時に沈めた。どちらも内面もクールなのは男子を余裕で虜にする。


 護身術習おうかな。


 「それじゃ、可愛くないって言われて拗ねたから肝試し行ってくる。また後でー」


 「話し相手ありがとな。いってらっしゃい」


 「はいよー」


 伊桜と違うクールな点。華頂はしっかり可愛いと言われたいらしい。冗談で可愛くないと言ったが、それでも根に持つほどその言葉を待ってる。打ち上げの時のプライド高いという言葉は間違いではない。


 ササッと二色を待つことはなく、自分のペースで青泉のとこへ向かう。嫌いではないのだろうが、マイペースを崩さないのは二色にとっては悲しい現実だ。


 さて、1人になったが、そんな俺に優しく接してくれる人は居ないかと、喋りかけられるのを待った。出来れば知ってる人がいいのだと、他力本願最高の精神だ。いや、もう話しかけられる気はしたから他力本願だった。


 「最近いつメンで男子1人になること増えたね。ついにボッチの道を歩き始めたの?」


 「それは思う。花染たちの勢いが凄いのは共感でしかない」


 「そのおかげで構ってもらえない事件が発生中」


 「やっぱり難しいよな。プライベートなら余裕なんだけど、学校行事ってなると壁がな。俺も話したりしたいけど、注目浴びるし」


 「仕方ないから大丈夫。私たちは不意に一緒になるだけで十分だからね」


 疲れて今にも寝そうな、小さくて透き通った声音。伊桜特有の俺にも睡魔を提供する聞き心地抜群の声音だ。


 「聞かれる前に、熊埜御堂さんはお花摘み行ったからここに来たの」


 「なるほど。でも、話してたら青泉とか千秋に気づかれるんじゃないか?」


 「大丈夫。青泉さんには私から説明するから。絶対に納得する説明をね。千秋くんと宝生くんは、見るからに私たちは意識外だから大丈夫」


 女子に囲まれる蓮と、男子に囲まれる千秋。お互いに人気の理由が違っても、人から好かれるのは変わらない。俺があの立場なら、きっと3日後には人を減らして0に出来る自信はある。


 「絶対って、結構な理由を考えてるのか?」


 「まぁね。嘘つくことになるけど」


 「悪いことさせてる気分」


 「私が話しかけに来たんだし、別に負い目を感じることないよ」


 「じゃ、甘えさせてもらう」


 「やっぱり少しは感じろ」


 「ういっす」


 高圧的な伊桜には素直に従うのが賢い。バカなんて何を思っても無駄なのだから。ハンドガンで反抗したって戦車には勝てないのと同じだ。賢い差は歴然だ。


 「天方は怖いのって得意?」


 「結構無理だな。ってことだから、どうせ伊桜も無理」


 「類友だからーとか言うんでしょ?大正解だけど。どう?嬉しい?」


 「嬉しくて涙が出るほどには」


 「なら良し。私も無理だからさ、何か心強いおまじないがほしいんだけど」

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