第87話 待ち時間
青泉とならどうにかなりそう。その気持ちは不思議と確実だった。騒がしい人と一緒ならば、いつか消えていくのだと、そう信じ込んでいるからだろうか。肝試しとか考えた人は相当なドSだ。多分青泉だろうけど。
「由奈は怖いの得意だけど、どうなるか分からないからね。怖がる人と一緒だと、不安になって次第にパニックになるかもしれないし」
「始まる前から攻撃するなよ。少しでも落ち着かないと取り憑かれそうなんだから」
「おばけにもモテモテだったら、一周回って笑うよ」
「盛大に笑ってくれ。ってか、団体で行けないのか?ビビり組とか作って、最低4人で」
「それだったら面白くないからって、由奈が拒否すると思うよ。今は隼くんとペアになれたんだから、尚更ね」
花染の後ろから華頂が出てきて、何かしらの意味を含んだことを言い始める。花染も華頂も、パートナーとは離れてるようで、特に二色の視線が強い。華頂と話したいのを邪魔されるのが嫌なのは分かるが、いつメンだから許してほしい。
「だよねー、体育祭で似たようなこと出来れば私も頑張ったんだけど」
「イベントとか決めないから何も変わらないでしょ。文化委員を選んだ由奈の勝ち。佳奈はずーっと負けてるね、もう負けヒロインお似合いレベル」
「これまで長い間を過ごしてきたから、平等にするために私に不幸が降りてるだけ。これからは私にも味方されるよ」
「だといいけどね。このガタガタ震えそうな隼くんをどうにか出来たら、一歩前進するんじゃない?」
「本当に震える手前な気がする。さっきからずっと、先に行った人たちのスマホを等間隔に置いて、街灯の代わりにしてくれないかなって思ってる」
おばけの存在は信じていない。しかし、こういう場に来れば、いつの間にか信じてるのが俺。絶対に居るのだと、そう思わせるのは全てテレビで放送する心霊映像のせいだ。逆にそれらを呪ってやりたい。
「大丈夫?由奈が居ても厳しいんじゃない?」
「仕方ないなー。隼くん、手のひら出して」
「手のひら?いいけど」
華頂に言われるがまま、サッと抵抗なく左手を仰向けに出す。するとそれを左手でガシッと掴み、右手を俺の左手の上に運ぶと。
「んー、痛いな……痛い痛い痛い!!」
右手の親指で、俺の左手の5本全ての付け根を強く押した。ツボとか関係なく、ただ痛かった。中々離してくれなくて、女子とは思えない怪力に屈する瞬間に手は離された。
「えぇ?悪いことしたか?」
「おまじなーい。私のお祓いパワー送り込んだから、多分おばけに襲われることはないよ。これで大丈夫。怖くなったら私のこれを思い出して、おばけより怖い存在がいること思い出せば安心安全の肝試しできるよ」
「確かに……でもそれ肝試しじゃないけどな。まぁ、少しは痛みで怖がることはないかもな」
「情けないとこ見せたら、モテなくなるかもしれないから気をつけないとね」
「モテなくていいけど」
痛みはまだ残る。微かでも、躊躇いなく笑顔で押してきたのを思い出せば、人が怖いことを教えられた気分にはなる。言葉で無理なら行動で。それを実行した結果、現在華頂にもう1度手のひらを押されることが何よりも恐怖だった。
効果抜群かよ……。
「姫奈も時々私の敵になるよね」
目を細めて、飯盒炊爨の時のように圧がある。
「それは佳奈がいつまでも余裕だって言って、腕組みながら由奈を待ってるのが悪い。さっさと掴めばいいのに」
「それが出来たら苦労しないよ。姫奈も私の立場になれば分かる」
「面倒なら分かりたくないけどね。楽しそうだけど」
女子の会話にはついて行けないことが最近多い。伊桜と話してるとそんなことはないのに。
「佳奈ー、次7組目だから!雨水さん待ってるよー」
遠くから1分半ごとに暗闇へと誘う係をする青泉から、順番を知らされる花染。
「はーい。今行くよ。それじゃ、隼くん頑張ってね」
「ああ。いってらっしゃい」
軽く手を振り、先に走って行く花染を見送る。その背中はウキウキで、陽キャで肝試し大好きというイメージにピッタリすぎた。
「華頂は何番目?」
「私は13だよ。だから、20番目が始まる頃に戻ってくるんじゃないかな?だから14からは、悠也くんか蓮くんに癒やしてもらうしかないね。2人ともパートナーと話すことで忙しいと思うけど」
「マジか……」
残るは青泉と伊桜。青泉は仕事してるから、必然的に伊桜になるが、熊埜御堂と何やら話してるので1人は確定。人と話すことで落ち着けはしたが、それがなくなるのは厳しい。普段から1人は好きでも、夜の1人は好きではない。
「どうしても無理になったら、由奈のとこに行って話してきなよ」
「多分そうする」
「それまではお姉さんと話そうか」
「誕生日俺より後だから、言うなら妹だろ」
「でもこの雰囲気なら、妹よりも姉の方がしっくりくるでしょ?」
「……しっくりくる。そもそも華頂の雰囲気がお姉さんっぽいからな」
可愛いかクールかで分ければ、クール寄りの華頂。隣りにいるだけで安心感を感じるほど頼りになる。普段から宥め役を担ってるのも、そういう理由だったりするかもしれない。
「まぁ、これはナンパの誘い文句みたいなものだから、家族じゃないんだけどね。家族って思うの、隼くんらしくて良かったよ」
「そうなのか?ホント、分からないことだらけだわ」
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