第86話 パートナー

 引いたのはいいが、俺と同じ番号を持つ人が現れないのは意図的なものだろうか。うちのクラスメートは40の偶数だ。余るなんて寂しいことは絶対にない。なのに、最後の伊桜が引いてもパートナーは見つからなかった。


 「青泉、俺って嫌われてる?それとも誰かが2枚取ったりした?ジョーカー役は困るんだけど」


 側でずっと箱を持って効率よく人たちを回していた青泉。文化委員としてやるべきことを果たしている途中に悪いが、どうしても受け入れ難い現実が目の前にあったので、聞いてしまった。


 「何番引いたの?」


 「1番最後の数字」


 「20なら居るよ。2枚入れたから」


 「えぇ?パートナーに嫌われたのか?泣き出してやろうかな」


 いつメンには好かれても、寡黙な人だとイメージの強い俺は他の人に好かれはしないかもしれない。だからある程度の嫌われは理解あるが、パートナーに嫌われるのはやはり悲しい。


 どこに居るのかと周りを見渡す。が、全員がパートナーを見つけて談笑している。いつメンは誰もがいつメンと違う人。どこだどこだと一回転してもう1度聞こうと青泉を見る。


 「……なんだよ、1番近くに居るじゃないか」


 「いぇーい。最後に残ってたのが20ってことで、私の番号と天方くんの番号同じ。パートナーです」


 小さな紙を両手の人差し指と親指で挟みながら見せていた。これまた近い人が選ばれたものだ。しかし、全く知らない人とパートナーにならなくて良かった。


 ちなみに花染は雨水という女子、華頂は二色という男子、千秋は真白という男子で蓮は八千代という女子。二色と八千代は何故かテンションが高い。モテると言われるだけあって、2人のパートナーなのは大当たりらしい。


 伊桜はというと……本当に申し訳ない。名字が難しすぎて覚えられなかった女子生徒と一緒だった。


 「みんな組めたかな?」


 「みたいだな。伊桜のパートナーの名字ってなんだか覚えてるか?難しすぎて忘れたんだけど」


 「伊桜さん、伊桜さん……あー、えーっとね……熊埜御堂くまのみどうさんだったかな」


 「むっず。めちゃくちゃ難しいな」


 「4文字だからね」


 「良いよな、珍しい名字って」


 「花染も華頂も千秋も宝生も天方も伊桜も、そんなに聞かないけどね」


 「青泉もな?」


 うちのクラスメートは珍しい名字が多すぎる。佐藤とか鈴木、伊藤とか山田とか誰1人として居ない。カッコよくていいが、覚えるのに一苦労だったのは忘れない思い出。


 「自分の名字ってよく自分で口にするから珍しいと思わなくなるんだよね」


 「分かる」


 天方なんてありふれてるように思える。個人的に気に入っているので不満は何もないが。


 「っと、そんなことより進行しないと」


 箱を下に置いて、マイクを使わずに自慢の声で説明を始める。


 「みんなパートナーは揃ったね?これからルートについて説明するから、聞き漏れないようにね。まず、私の後ろにある階段、それを上に上がる。頂点に着いたら木製のベンチがあるけど、座って待つなんてことしないでね。ベンチの横に、2人横並びで通れるかの細道がある。そこを真っ直ぐ進む。ここで大切なことなんだけど、絶対に真っ直ぐから逸れたらダメだよ。逸れたら迷子になるかもしれないからね。そして真っ直ぐ進み続けると、タヌキの置物がある。それにこの各パートナーの番号を書いたプレートを置く。置いたら更に奥へ進んで階段を下りる。そしたら、そこに街灯があって、ここに戻ってこれる地図がある。それを頼りに街灯の下を歩いてきて。以上が肝試しの説明。番号順に進むから、1番の人たちは準備してー」


 聞いていて思ったが、これ、無理だ。


 早速1番目の組が階段下へ向かう。男子同士だからか、笑い合って余裕だと見せつけている。どうしてそんなに肝を試される準備が万端なのだろう。怖くて仕方ないのは俺だけか。


 「はーい、じゃ1組目いってらっしゃーい」


 最後というのが無理だ。後ろから助けが来ないのは精神的に怖い。1度暗闇に迷った俺は、怖いのが本当に無理なのだ。克服したつもりだったが、やはり暗闇の中に入って行くのは、どうしても抵抗が……。


 「隼くん」


 「うわっ!!ってなんだよ花染かよ」


 「え?私もめちゃくちゃびっくりしたんだけど。私って恐れられてるの?」


 「違う違う。いきなりだったからつい。花染はなんでここに?」


 「由奈が不正して隼くんと同じになったのかなって聞きに来たけど、たった今、6番目に引いたんだし、由奈が不正出来ても隼くんは不正じゃないなって解決して、なんとなく話しかけに来たの」


 若干恐怖を感じる声音だが、俺の驚かされた脳みその勘違いだろう。動悸が激しすぎる。


 「だけど、打ち上げの帰りのことを今思い出して、心配しに来たのもあるよ。大丈夫?」


 「全然大丈夫じゃない。無理無理。こんなの秒単位で叫んでるって」


 「ははっ。想像出来ないけど面白そう。その、無理な理由ってやっぱり迷子の件?」


 「そう。思い出すと連れ去られそうで怖い」


 「子供っぽいこと言うね。でも、それなら止めとくのもありじゃない?」


 「考えたけど、青泉と一緒なら大丈夫かなって。耐性ありそうだし、元気で目に見えない何かを吹き飛ばしてくれるだろうから」


 無理かもしれない。けど、そう信じないと今の俺は恐怖におかしくされそうだった。

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