第80話 班決め

 「嫌じゃないからいいんだけどな。嬉しいことだし」


 何にせよそれは変わらない。ツンツンしているだけの、素直にならない伊桜ではなく、積極的に関わろうと自分から行動する伊桜は、珍しくて関わりやすい。不満なとこ皆無だ。


 「今まで天方がカマチョしてきた分、私もカマチョするってことだね。似た者同士、やることは似てるんだよ」


 「受け身の伊桜だから、今までカマチョしたり、いじったりしてたんだけどな。積極的に来られるとそれも出来なくなるから、残念ではある」


 「そう?でも、そんなに変わらないよ。グイグイ詰め寄るのはそんなに得意じゃないから。無理してるって感じだしね」


 「頑張るんだな。無理するのは良くないぞ?不満あれば俺から行くし、悩むほど俺と関わりたいのは分かるけど、自分のペースを崩すのはな」


 「自意識過剰か。けど、間違いでもないかな。最近、天方の周りが騒がしいから、その分私も色々とあるんだよ」


 その「色々と」が、俺には分からないことなのだと、何故か瞬間的に理解した。雰囲気というか、俺には無理だと伊桜にそう言われてるように目を細められたから。


 「よく分からないけど、受け身を否定しないとこ、ドMなんだな」


 「んー、SかMかは、自分でも分からないよ。多分Mなんだろうけど、頻繁に天方をいじりたくなるから、Sも強めにあると思う」


 「それ、Sだな。思い出せば伊桜ってSっぽいこと多いかもしれない」


 勝敗が絡むと、自然とSになる。絶対に勝つのだと、その瞳に込められた力は尋常じゃなくなる。精神攻撃も厭わないので、その時はドMの喜びそうな罵詈雑言を飛ばす。もちろん冗談だが、冗談とは思えない勢いなので、たまに押される。


 「何にせよ、私は天方と林間学校で関われるってこと、それに満足してるから楽しみだよ」


 言って本を閉じ、カバンの中に戻した。


 「そんなこと言うなんて、今までなかったんだけどな」


 「それだけ変わってるってことだよ。私は重いみたいだから」


 「……どういうことだ?」


 どこを見ても細い体躯なのに、重そうには見えないのに重いだなんて、やはり変わってるのは本当らしい。


 「じゃ、私は用事あるから帰るね」


 「え?用事?失礼だけど、伊桜に用事あるんだな」


 「自分でも珍しいと思うよ。けど、必要なことだから用事なの。残念だけど、また今度、若しくは林間学校で話そ」


 カバンを持って、青泉よりは全然遅く図書室を出ようと歩き出す。


 「そうだな」


 「ん。またね」


 まだ16時過ぎてすぐ。伊桜の読書がこれからという時間帯に、伊桜は珍しくも帰宅した。用事が何か気になって仕方ないが、詮索もする気はないし面倒だから、俺は手を振ってそっと腰を下ろした。それから時間差で、俺もゆっくり帰宅した。


 翌日。グループ決めが始まった。というか、放課後になって、それぞれグループ決めて明日になったら教えてと、そういうことなので、時間を使うことはなかった。


 そして今日は、女子バレー部の休みの日。だからか、花染と青泉が俺の机の前に来た。蓮と千秋、華頂は部活へ直行。伊桜はいつものようにチャイムがなった瞬間に教室を出た。教室には女子バレー部所属の人たちしか残ってなかった。


 「やっほー」


 「どうした?花染も揃って」


 すっかり軽く挨拶を交わす間柄になった青泉。いつメン以外では、いや、もう青泉もいつメンと言っていいほどにいつメンとの交流は多いが、それでも女子では4人目の友人だ。


 「天方くんの昨日の話だけど、三人一組を選べってやつ。あれって、残り1人は誰にする予定なの?」


 聞かれてすぐに「やべっ」と頭をその言葉が過った。提案すればそう聞かれるのは重々承知だったのに、咄嗟のことで余裕もなく狼狽してみせた。


 嘘はつけないよな……。


 「伊桜を誘ってる」


 「えっ、伊桜さん?!」


 青泉よりも花染が激しく反応した。声量には大差ないが、5秒経過しても表情が変わらないとこを見ると、大差だった。


 「そう。打ち上げからシンパシー感じて、話してると落ち着くっていうか、いつメンにはない性格だったから、話してみようかなって」


 「あー、分かる。天方くんっておっとり優しい系の人だから、似た人に惹かれるのも納得」


 系統に関しては全く分からない。ツンデレ、ヤンデレしか知らない俺に、何々系なんて言われても「はにゃ?」すら言えない。


 「ってことで佳奈脱落ー」


 「脱落?」


 「由奈から聞いて、私も隼くんと同じ班になろうと思ってたの。でも、今思えばそう言うってことは、誰かと組みたいってことだよねって、我ながら早めの反省中」


 俺の机に前から項垂れて、玩具物語のキャラクターのように、脱力してフニャフニャになる。最近は会話中に凹む花染ばかり目にしている。美少女らしく、清楚可憐に振る舞う姿を捉えられていない。


 「悪いな。先着っていうか、先に決めてたんだ。一緒に組みたいと思ってくれたのは嬉しい。ありがとう」


 「……こ、これが例のやつ?天然って怖いね」


 「でしょ?由奈には悪いけど、これもう100回は貰ってるから」


 「良いことじゃないけど、良いことだよね。うん、これ罪だわ」


 「……何?大丈夫か?」


 2人揃ってわけの分からないことを。俺の周りに意味不明や、理解不能のことが起こりすぎて混乱する。もう少し分かりやすくならないものかと、自分の読解力の無さに嘆きたい。


 「大丈夫だよ。まぁ、今回はこれに免じて引き下がるけど、次は絶対に!」


 「ここまで言っても、分からないってね……大罪だね」


 「……は……はぁ……」


 「帰ろ、由奈。今日はあんたをボコボコにしないと気が済まない」


 「はーい」


 「またね、隼くん」


 「また……」


 これ、俺が悪いのか?


 こうして、俺の林間学校前の、意味不明な謎の日常は過ぎ去った。

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