第79話 変化の予兆

 来週に控えた林間学校。主に何をするかなんて、どの学校も変わらないだろう。その学校特有の何かをしたとして、必要になるのが班だ。協力して何かを成す。それは求められてしまう。


 そして俺に課された義務。伊桜と同じ班になれと。そんなことを言う性格でもないのに、構わなかったのが逆鱗に触れたか、どうやら斜め後ろから視線の圧を送るほどには絶対らしい。


 「それじゃ、今日はここで終わりね。明日は班決めするから、そこんとこよろしくー」


 ということは明日までにどうにか策を練り出せということ。文化委員の青泉により、今日の話し合いは終わった。ちなみにもう1人は音鳴。これで放課後というわけだが、一応策はある。あまり好ましくもないのだが、やるしかないだろう。今までお世話になってるという感謝も込めて。


 ぞろぞろと部活や帰宅のために移動する生徒たち。俺はその1人のもとへ向かった。


 「青泉、ちょっと時間あるか?」


 「え?天方くんじゃん。珍しいね、何々?時間あるけど」


 足音も鳴らしていたし、気配もあっただろうに、驚かれるので申し訳なく思う。いつメンでは圧倒的に気配は薄いが、それでも普通なりにはあると思っているからこそ、少し悲しさはある。


 「林間学校についてなんだけど、班を決める時ってどう決めるか教えてもらってもいいか?」


 「班を決める時?それならくじ引きで決めるんだよ。男女関係なく三人一組のね」


 「誰かが選ぶとかじゃなくて、運に選ばれた人たちで3人組めと?」


 「うん。そういうこと」


 基本は飯盒炊爨の時に集まる三人一組だ。仲が良くないと気まずい空気が出来てしまう微妙な人数。奇数は軋轢の始まりらしいから、仲良しは重要なことだ。


 「ならお願いなんだけど、その決め方を、リーダーに決められた人が自由に選ぶとかに変えられないか?」


 「自由か……うん、変えれるよー」


 「本当に?」


 「うん。別に決め方は決まってないし、運も嫌だからね。学校が決めたんだけど、くじは用意されないし、面倒だからそれで良いと思う」


 思ったよりあっさり承諾された。が、その裏には何かしらの理由があるのが普通だ。何かを企むようにニヤッとする青泉は言う。


 「でも、1つ条件があるよ」


 「何でも聞く」


 「私と同じ班になることです!」


 「青泉と?」


 「そう。そしたらその意見を受け入れてあげよう」


 堂々と胸を張り、腰に手を置いてどんと構える。権力は圧倒的に青泉が上だが、威厳もなく可愛らしさしかないので迫力はない。


 しかし、困ったことだ。青泉も来るならば伊桜に構えない時間が増える。あれこれしてたといつメンに言われれば、そこから関係に辿り着くかもしれない。秀才ばかりを友人にするのも、仇となるのかと、少しばかり後悔する。


 仕方ないか……青泉も良い人だし……。


 「分かった。青泉と班になるから、頼んだ」


 「やったー!……じゃなくて任せて。音鳴くんにも言っておくから」


 ゴホンッと、気を取り直すかのように咳き込んで言い直す。花染に似てると思ったが、花染と違って読みにくい部分が多いのは気になる。多分話し出してそんなに長くないからだろうが、これを機に仲良くなるのもありだろうか。


 「助かる。それじゃ、部活頑張って」


 「うん!!ありがと。また明日ね!」


 手を振り颯爽と教室を出ていく。「うん!!」の元気の良さに目を瞬かせたが、それが青泉らしさなのだと、知れたことは嬉しい。


 教室も静かになり、いつメンも部活に行ったことを確認すると、俺の向かう場所は1つだった。いつもの偽物が黙読を楽しむ場所。


 ――「――ってことだけど、どう?」


 図書室で、閑散とした空気感の中、俺は伊桜から離れたところでどうかと聞いた。賛否関係なく、もうこの道しか残されてないので、承諾してくれなければ抗いようもないが。


 「本当に同じ班になれるなんてね。青泉さんは予想外だけど、三人一組なら構ってくれる時間はあるでしょ。ありがと」


 これまたあっさりと感謝されるほど良かったらしい。考え込みすぎてたのか、今の伊桜が根っからの善人に見える。元々善人だが、更にその上の存在のような。神秘的な。勝手に神格化してるが、間違いでもないと思ってきた。


 「文句ないならいいけど。それより、なんか性格変わった?」


 「いや?私そのままだけど?」


 「打ち上げの時から積極的に近づいてきてるっていうか、陽キャの距離の詰め方みたいに寄ってきてる気がするんだけど」


 「あー、少しだけ。最近天方の周りが忙しくなってきたから、その分暇だなって。だから少しだけ寄ってるかも」


 「忙しくなってるか?変わらなくないか?」


 「今までは夏休み会ってたりしたから、時間あったし、天方が私と会わない時何してるか分からなかったでしょ?でも今は目で見て分かるし、時間もない。仲良くするなら、もう少し距離詰めてもいいかなって」


 聞いてなんだがなんとなく、そうなのかなとは思っていた。俺も伊桜と話す機会が減ってることは気にしていたし、実際どうにかならないかと考えていたことだ。


 しかし、誰にも見られたくない以上、それ以上踏み出すことは俺には出来ない。今の関係に文句はない。学校行事で思い出を作るなんて、俺は然程重要視していなかったから。でも、体育祭を経て、それは変わってしまった。伊桜からも、林間学校で構えと、少しずつ変化していってるのかもしれない。

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